円滑な第三者承継に向けて 第6回 ~最終契約書の内容について~(弁護士:朝妻太郎)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

過去の連載記事はこちら

 

 

本連載も最終回となりました。

今回は、M&Aの最終契約書で特徴的な表明保証条項を中心に説明をしたいと思います。

表明保証条項について

表明保証とは、契約を締結する際に、一方当事者が、一定の時点における契約当事者自身に関する事実、契約の目的物の内容等に関する事実について、当該事実が真実かつ正確である旨を明示的に宣言・表明し、相手方に保証するものをいいます。

そして、表明保証条項に違反した場合には、相手方当事者に対して補償責任を負うことになります。

 

この表明保証責任は、英米法由来の概念といわれており、日本法上の位置付けは、必ずしも明らかではなく、損害担保契約の一種と説明されることが多いようです。

 

表明保証条項は、最終契約までに実施した財務デューデリジェンス(以下「DD」といいます。)や法務DDの結果を反映させるという側面があります。

前回ご説明したとおり、中小企業の小規模なM&Aの場合、DDに十分な費用と時間をかけることは困難ですので、DDだけではリスクを全て把握することは難しいのが実情です。

そうすると、譲受企業側からすると、この表明保証条項を充実させることと、条項の実効性を確保することが極めて重要となります。

 

他方、譲渡企業側からすると、表明保証条項により、最終契約締結後に重大な責任を負わされかねない事態となり得るわけですが、実際、表明保証条項の内容について、どれだけ精査されているのか、疑問を感じざるを得ない契約もよく見受けられます。

クロージング後のトラブルについて

 

買主である譲受企業側とすると、必要十分な表明保証条項が設定されたとしても、その後の売主の資力不足で 、実質的な補償が受けられなかったり、表明保証違反時の補償に関する規定で、賠償金額の上限や請求期間に制限を設けることがありますので、表明保証部分のみならず、その後の補償についてどのように定められているかについても、注意を払う必要があります。

 

譲渡企業側に表明保証違反の事実があったとしても、譲受企業側に、表明保証違反について悪意または重過失がある場合に、売主が免責される可能性を指摘した裁判例が存在します(東京地判平成18年1月17日 判例タイムズ1230号206頁 )。

すなわち、表明保証違反による補償責任が、譲受企業の主観によって左右されうるということです。

譲受企業側からすると、譲受企業の主観によって譲渡企業が表明保証責任を免れないことを明記する条項((プロ)サンドバッキング条項といいます。)を設けるなどの工夫が必要となります。

 

また、補償請求権が有効に認められたとしても、M&Aが事業再生と合わせて実行されたような場合には、譲渡企業側の補償原資はあてにできませんので、事後的補償が期待できないというリスクが生じうることは念頭に置いておかねばなりません。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年1月5日号(vol.252)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

一新総合法律事務所では、案件ごとに、依頼会社の予算感やM&Aの規模感などから適切な関与の程度と費用を見積もり、ご提示し、ご納得いただいた上で関与させていただいております。

貴社のM&Aが成功裏に終わり、事後のトラブルをできるだけ回避できるよう、法的な側面について、弁護士に相談することを是非一度ご検討下さい。

 

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