労働者の個人情報取扱いの注意点(弁護士:飯平藍子)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 飯平 藍子

飯平 藍子
(いいひら あいこ)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学大学院法務研究科修了
主な取扱分野は、交通事故、離婚、企業法務です。その他、相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
企業向けに「顧客トラブル回避対策セミナー」「ハラスメント研修」などの講師を務めた実績があります。

個人情報保護法の適用

企業では、労働者の個人情報をまとめて従業員名簿を作成したり、データ化したりして雇用管理を行うことが多いと思います。

このような企業は「個人情報取扱事業者」として「個人情報の保護に関する法律」(以下「個人情報保護法」といいます。)が適用され、個人情報を適切に扱うことが求められます。

個人情報とは

個人情報保護法は、「個人情報」を「生存する個人に関する情報」であって、①氏名や生年月日その他の記述等により特定個人を識別することができるもの、又は②個人識別符号(顔認証データや運転免許証番号等)が含まれるもの、と定義しています(2 条1 項1 号および2 号)。

同法は、個人情報の中でも特に配慮が必要なものとして、「要配慮個人情報」についても定めています(2 条3 項)。

具体的には、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令が定める記述等が含まれる個人情報」があたります。

もっとも、後でも述べますが、「要配慮個人情報」にはあたらなくても、プライバシー性が高く、対応に注意が必要な情報もあります。

個人情報保護法による規制

個人情報保護法は、「個人情報取扱事業者」に対し、利用目的の特定(15 条)、目的外利用の制限(16 条)、利用目的の公表・通知または明示(18 条)、安全管理措置(20 条)、第三者提供の制限(23 条)等の規制を設けています。

以下では、雇用関係において特に、注意が必要な点をみていきます。

利用目的の特定

企業は労務管理や健康確保、人事管理、福利厚生の提供等のため、労働者の氏名、生年月日から学歴、収入、家族構成等まで、極めて広範囲な情報を収集します。

そこで、企業には「どの情報を何に利用するのか」を特定することが求められます。

例えば、「家族等の氏名、住所、電話番号は、法令に基づく各種手続のほか、社内規定に基づく各種手当の支給およびご本人に万一のことがあった際の連絡のために利用する」等です。

取得に際しての労働者の同意

個人情報保護法は、「要配慮個人情報」を取得する際は、原則としてあらかじめ本人の同意を得ることを要求しています。(27 条1 項。例外として、法令に基づく場合や、人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難な場合等には本人の同意は不要とされます。)

これに対し、個人情報が「要配慮個人情報」にあたらない場合には、本人の同意を得ることは義務付けられていません。

もっとも、「要配慮個人情報」にはあたらないとしても、プライバシー性が高いものもあります。

例えば、

①労働者による不正防止や業務状況の把握のために労働者の位置情報(GPS 位置情報等)を取得する場合
②感染症の拡大防止のためにワクチン接種の有無の報告を求める場合
③社有車を運転させるにあたり過去の交通違反歴を申告させる場合

等が考えられます。

これらの情報については、「要配慮個人情報」にはあたらないとしても、プライバシー性が高いことに配慮し、本人から同意を得た上で、任意に取得することが望ましいと考えられます。

同意取得の方法

⑴ 十分な説明

労働者からの同意を得るにあたっては、まずは

労働者に対し、どのような内容の情報を、どのように利用し、その結果どのような影響があるかの説明を十分に行いましょう。

これにより、労働者が「自由な意思」で同意したものと認められやすくなります。

⑵ 同意を確認する文書の作成

同意の存在を明確にするため、個人情報の届出書や申告書に、同意を確認する文言を入れましょう。

そこには、同意にかかる個人情報の範囲、収集目的、同意書の有効期間等を記します。

そして、「同意する」という欄だけではなく、「同意しない」という欄も設け、選択肢がある中で同意したことを明確にするとよいでしょう。

⑶ 包括的な同意条項で足りるか

労働者の同意については、就業規則に包括的な定め(「労働者は、使用者による自己の個人情報の取得、利用に同意する」等)を設ければ足りるのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、これを認める見解もありますが、個人情報保護法が個人情報の取得、目的外利用、第三者提供等の各場面において、都度、本人の同意を要求している趣旨からすると、上記のような包括的な定めだけでは足りず、別途、労働者から個別に同意を得るべきであると考えられます。

■参考文献
・労政時報第4057 号「労働者のプライバシー等に配慮した個人情報取り扱いの実務 情報取得時の留意事項と、プライバシーの侵害に当たらない対応のポイント」著/弁護士 北山 昇
・「Q&A 企業における多様な働き方と人事の法務」著/堀田陽平(元経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 室長補佐・弁護士)
・「【改訂版】企業労働法実務入門 はじめての人事労務担当者からエキスパートへ」著/企業人事労務研究会(著)、編/倉重 公太朗・田代 英治・小山 博章・荒川 正嗣・中山 達夫・石井 拓士・
平田 健二・近衛 大・岡村 光男・瓦林 道広・樋口 治朗・田島 潤一郎・冨田 啓輔・吉永 大樹・河本 みま乃・菱野 義将・荒川 建一


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年7月5日号(vol.294)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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