2025.5.29

データ提供契約の概要・留意点について

データ提供契約の概要と留意点

様々な取引でデータの利活用が急激に増大していますが、データ関係の契約は、契約締結時には将来生じる事態を網羅されない契約になりやすいといわれています。

経済産業省から令和元年12月に「AI・データの利用に関する契約ガイドライン1.1版」が公表されています。

そこで本ガイドラインに基づきデータ契約のうち提供型の契約について説明します。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 佐藤 明

佐藤 明
(さとう あきら)

一新総合法律事務所
副理事長/長岡事務所長/弁護士

出身地:新潟県長岡市
出身大学:新潟大学法学部(民法専攻)
新潟県弁護士会副会長(平成25年度)などを務める。
取扱い分野は、団体では企業法務、自治体法務、学校法務など。個人では相続や離婚などの家事事件、金銭問題など幅広い分野に対応しています。
社内研修向けにハラスメントセミナーや、相続・遺言、成年後見制度をテーマとしたセミナーで講師を務めた実績があります。

データ提供契約

本ガイドラインでは、データ契約としてデータ提供型・創出型・共用型が挙げられています。

データ提供(型)契約とは、取引対象となるデータにつき一方当事者(データ提供者)から他方当事者に対して当該データを提供する際に、当該データに関する他方当事者の利用権限その他データ提供条件等を取り決めるものです。


例えば、製品の製造業者が顧客から要求された寸法精度や強度を満たす製品を開発する際に自ら様々なテストを実施し、そのテストから得られたデータを用いれば製品開発の工数を大幅に減らすことができる場合、そのデータを第三
者に販売したり利用許諾したりする取引が考えられます。

データ提供の3種類

【1】データの譲渡

データは無体物であり民法の所有権移転・譲渡は観念できません。

そのためデータの譲渡は、データの利用をコントロールできる地位を含む当該データに関する一切の権限を譲受人に移転させ譲渡人は当該データに関する一切の権限を失うことと解され、譲渡人にて手元データを消去する方法等が考えられます。

【2】ライセンス(利用許諾)

データ提供者が保持するデータの利用権限を一定の範囲でライセンシーに与えますが、ライセンサーは提供データに関する全ての利用権限を失いません。


データは前述のように民法上の所有権が観念できないので、上記譲渡との区別を明確にするため、契約で提供データの利用許諾であることを規定するだけでなく、契約で明示したものを除き提供データに関する何らの権限をデータ受領者に移転しない旨定めることが考えられます。

【3】共同利用(相互利用許諾)

契約当事者が例えば甲乙の場合、甲が保持するデータについて契約によってその利用権限の全部または一部を乙に与え、他方、乙が保持するデータについて契約によってその利用権限の全部または一部を甲に与えることをいいます。


この場合、双方でデータの混同が生じるおそれ等があり、契約でデータの分別管理を規定したり、データにアクセスできる従業員を限定するなどして、秘密保持義務を定めるべきです。

主な法的論点

【1】派生データ等の利用権限

提供データを加工・分析・編集等することで新たな価値を生むことがあり得えます。

生じた派生データの利用権限について、契約で明確にすべきです。

またデータ受領者が著作権、特許権等知的財産権を生みだすことも考えられ、その帰属を当事者間で変更するのであれば契約上にその帰属について定めるべきです。

【2】提供データの品質

提供データが不正確、不完全、有効ではない、安全ではない(ウイルス感染等)、第三者の知的財産権を侵害しているなど提供データの品質に問題があり、法的責任が問題となることがあります。


契約が有償契約である場合、民法上契約不適合責任の適用が考えられます。

もっとも提供データの品質も様々な態様があるので、どの範囲で責任を負うのか契約で明確にしておくべきです(表
明保証条項等)。


データ提供者が提供データの品質について一切保証しない旨定めることも原則として有効ですが、データ提供者の故意または重大な過失により品質に問題が生じた場合は責任を負うと考えられます。

【3】提供データ利用による損害

データ受領者が提供データを利用している際に、第三者から当該データに関する知的財産権の侵害を理由に賠償請求がされるなど、法的紛争が生じることがあり得ます。


そこで、契約で提供データの利用に関連して第三者との間で法的な紛争が生じそれによって必要となった費用や賠償金をどちらが負担するのか規定すべきです。

もっとも、契約で定められた利用範囲を超えてデータ受領者が提供データを利用した場合にまでデータ提供者が費用・賠償金を負担する義務はないと考えられ、契約にデータ提供者が義務を負うのは契約で定められた態様での利用に限る旨規定すべきです。

【4】提供データの目的外利用

提供データの保護ため、一定の範囲でデータの利用を制限する目的外利用禁止条項を定めることが考えられます。


他方、提供データを将来、加工・分析・編集・統合等を行った上で利用を促進するため契約で工夫することも考えられます。例えば第三者提供につき、予めデータ提供者に第三者へ提供するデータの内容を確認してもらいデータ提供者の秘密情報が除外されているか確認する手続規定を定めること等です。

おわりに

さらにデータ契約の他の類型や具体的な条項等を確認したい場合には本ガイドラインを参考してください。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年3月5日号(vol.301)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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