2025.12.10

下請法の改正~下請法から取適法(とりてきほう)へと変わります~

はじめに

令和7年5月、下請法の改正案が国会で可決され、成立しました。

改正後の法律は令和8年1月1日から施行されます。


今回の法改正は、様々なコストの上昇分を、サプライチェーン(原材料調達から消費者への製品提供までの一連の流れ)の全体において価格へ適切に転嫁していくこと、そして中小受託事業者に負担を押し付けるような商慣習を一掃していくことなどを目的とするものです。

条文の変更だけでなく、法律の名称も変更されるという大きな改正です。

本記事では、この法改正の概要を解説いたします。

法律名と用語の変更

従来の「下請」という用語に対しては、本来は対等な関係であるべき発注者と受注者との間に、あたかも上下関係があるかのような語感を与えてしまう、との指摘がなされていました。

また、中小企業庁及び公正取引委員会によって行われた近年のアンケート調査では、「下請」企業と呼称されたことがない受注者が約80%にのぼっており、発注者と受注者との間で、「下請」という言葉が使用されないことの方が多くなっていました。


これらの理由から、今回の法改正では、まず次のとおり法律の名称が変更されました。

 改正前:「下請代金支払遅延等防止法」

→ 改正後:「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」
(略称:「中小受託取引適正化法」又は「取適法(とりてきほう)」)

次に、これまで使用されていた用語が、次のように変更されました。

「親事業者」→「委託事業者」
「下請事業者」→「中小受託事業者」
「下請代金」→「製造委託等代金」

改正前改正後
下請代金支払遅延等防止法製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
(略称:「中小受託取引適正化法」又は取適法(とりてきほう)」)
親事業者委託事業者
下請事業者中小受託事業者
下請代金製造委託等代金

適用対象の拡大

(1)従業員基準の追加

従来は、下請法が適用されるかどうかは資本金の額によって判定されていました。


しかし、事業規模が大きいにもかかわらず資本金が少額の事業者が適用対象にならないという問題点や、委託事業者が適用逃れのために受託事業者に対して増資を求める例があるとの問題点がありました。


そこで、取適法では、従業員数による判定基準が追加されました。


具体的には、委託事業者が従業員300人超(役務提供委託、情報成果物委託では100人超)で、受託事業者が従業員3 0 0 人以下(役務提供委託、情報成果物委託では100人以下)の場合は、取適法の適用対象となります。

(2)特定運送委託の追加

これまでの下請法では、運送事業者から他の運送事業者に対する委託は規制対象に含まれていましたが、発荷主から元請運送事業者への委託は規制の対象外でした。


しかし、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを発荷主から無償で強いられるといった問題が、社会において顕在化していました。


そこで、取適法では、発荷主からの物品の運送の委託も、「特定運送委託」として新たに規制の対象となりました。

協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

近年では、労務費、原材料費及びエネルギーコストが上昇しているところ、それらの上昇分を、中小受託事業者が価格に十分に転嫁できていないという課題がありました。


そこで、取適法では、代金に関する協議を適切に行う義務を、委託事業者に課すこととなりました。


具体的には、中小受託事業者から委託事業者に対して価格協議の求めがあった場合、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして、委託事業者が一方的に代金の額を決定する行為が禁止されます。

手形払いなどの禁止

取適法では、委託事業者が中小受託事業者に対し、代金を手形で支払うことが禁止されます。


また、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭を得ることが困難であるものは支払手段として使用できません。


これは、中小受託事業者の資金繰りの負担を軽減する趣旨のものです。

その他の改正内容

その他、取適法では、次のような点が改正されました。

① 公正取引委員会と中小企業庁長官だけでなく、事業所管省庁の主務大臣も、指導及び助言を行う権限をもち、また、「報復措置の禁止」の申告先となります。

② 製造委託の対象物として、専ら製品の作成のために用いられる木型、治具などが追加されます。

③ 書面等の交付義務に関して、必要的記載事項を電磁的方法により提供することが可能となります。

④ 代金の額を不当に減らした分も、遅延利息の対象となります。

⑤ 勧告の時点において既に委託事業者による違反行為が是正されていた場合でも、再発防止策などの勧告対象となりえます。

結語

以上、下請法が取適法へと改正されることの概要を解説させていただきました。


これまで下請法の適用対象となる取引をなさってきた事業者の方々や、取適法の新しい適用対象に含まれる事業者の方々は特に、法改正の内容を正確に理解して、令和8年1月1日からの施行に備えていく必要があります。


ご質問などございましたら、ご遠慮なく当事務所の弁護士にご相談ください。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年10月5日号(vol.308)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 海津 諭

海津 諭
(かいづ さとる)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:京都大学法科大学院修了
新潟県公害審査委員、新潟県景観審議会委員を務めています。主な取扱分野は、相続全般のほか、離婚、金銭問題、企業法務など幅広い分野に精通しています。
また、『月刊キャレル』(出版:新潟日報事業社)に掲載のコーナー「法律相談室」に不定期で寄稿しており、身近な法律の疑問についてわかりやすく解説しています。

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