2026.1.15

顧客対応の新常識~カスタマーハラスメント法規制への対応~

カスタマーハラスメントとは何か

「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」とは、顧客や取引先からのすべてのクレームを指すものではありません。

商品やサービスの改善を求める正当な要望は、事業活動における重要なフィードバックです。

しかし一方で、過剰な要求や不当な言いがかり、威圧的・暴力的な行為といった迷惑行為は、従業員の尊厳や就労環境を脅かす深刻な問題です。


いずれの業種であっても、顧客という立場を利用した理不尽な行為は、従業員の人権を侵害し、企業の持続可能性を損なう行為であるといえます。


令和7年6月に公布された改正労働施策総合推進法では、カスハラについて、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」と定義されています。


そして、これまでパワーハラスメント等が規定されていたのと同様に、カスタマーハラスメントを防止するために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。

そのため、カスハラ防止のために必要な措置を講じなかった事業者は、いざカスハラ事案が生じた際に、被害に遭った従業員に対し法的責任を負うことになります。

カスハラの種類

カスハラの典型的な類型には以下のものがあります。

類型カスハラに該当する行為の例
暴言型怒鳴る、侮辱する、脅すなど言葉による攻撃。
暴力型殴打や物の破壊など身体的攻撃。
セクハラ型性的な言動や不適切な接触。
時間拘束型長時間にわたり居座る、電話をかけ続けるなど業務を妨害。
リピート型同じ要求を執拗に繰り返す。
威嚇・脅迫型「株主総会で糾弾する」「SNSで晒す」といった脅し。
権威型地位や立場を利用した高圧的要求。
SNS誹謗中傷型インターネット上で名誉を毀損・プライバシーを侵害する行為。


これらはいずれも従業員の心身に深刻な負担を与えるだけでなく、他の顧客へのサービス提供を阻害し、事業全体の信頼を揺るがします。

カスハラが企業に与える影響

カスハラの影響は多方面に及びます。

従業員にとってはストレス、睡眠障害、精神疾患などの健康被害や退職リスクを高めます。

企業側も、クレーム対応に要する時間的コスト、訴訟リスク、慰謝料請求への対応など直接的損失を負う可能性があります。

さらに、職場環境の悪化や従業員の離職は人材確保を困難にし、サービス品質の低下や顧客満足度の低下を招きます。


一方で、明確なカスハラ対策を講じることは、従業員の安心感を高め、組織全体の士気や顧客サービスの質を向上させる効果もあります。

企業が行うべきカスハラ対策

厚生労働省マニュアルや各業界の指針では、企業が取るべき基本的枠組みとして以下のような内容が示されています。

一次対応者が孤立せず、上司や関係部署が連携して対応するプロセスの重要性が強調されています。

❶基本方針の明確化と周知

「暴言・暴力は許さない」姿勢を社内外に明確に示すこと。

❷相談体制の整備

被害にあった従業員が安心して相談できる窓口や担当部署を設ける。

❸対応手順の策定

初期対応から上司・法務部門・警察へのエスカレーションまでをマニュアル化。

❹教育・研修の実施

従業員に対して事例を踏まえた研修を行い、毅然と対応できるよう備える。

❺外部専門家との連携

弁護士や警察、専門相談窓口との連携体制を整えておく。

カスハラ発生時の企業対応

次に、実際にカスハラが発生した際の対応について、具体的な事例に当てはめると、以下のような対応が考えられます。

[ 事例 ]
小売店において、商品に軽微な不具合があったことを理由に、顧客が長時間にわたり従業員を大声で叱責し、さらに「土下座しろ」「会社をSNSで炎上させる」と威圧的発言を繰り返した。
従業員は恐怖心から業務に支障を来した。

企業の取るべき対応策

  1. 一次対応者は冷静に受け答えを行い、それ以上単独で対応せずに、速やかに管理者を呼び、複数名で対応しましょう。
    今後も担当者1名に負担させるのではなく、複数名対応を心がけることで、従業員の心理的負担の軽減に繋がります。
  2. 管理者は事実関係を確認し、要求内容に妥当性があっても「土下座強要」や「S N Sでの脅迫」は社会通念上不相当であると判断されます。
    毅然と拒否することが必要となります。
  3. 状況を記録し、必要に応じて警察・弁護士に相談を検討します。
    土下座強要のような事案で相手方の態度が強硬な場合には躊躇無く外部機関への相談を検討してください。
  4. 被害に遭った従業員に対しては心理的ケアを実施すると共に、後日、社内研修等で再発防止策を共有しましょう。

おわりに

カスタマーハラスメントは「顧客第一主義」の名のもとに看過されるべきものではありません。

顧客の正当なクレームと悪質な迷惑行為を明確に区別し、従業員を守ることは、結果的に企業の信頼性と顧客満足度の向上につながります。

あらゆる業種において、組織全体で取り組むべき経営課題であることを強調しておきたいと思います。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年11月5日号(vol.309)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士会連合会弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

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