2025.6.10
労働者の個人情報の保護について

はじめに
ご存知のとおり、個人情報を紙面やパソコンで名簿化するなど、データベース化して事業活動に利用している者である「個人情報取扱事業者」は「個人情報の保護に関する法律」( 以下「個人情報保護法」)を守らなければなりま
せん。
この場合に守られるべき「個人情報」としては、その事業者の顧客等の個人だけではなく、自ら雇用する労働者など事業者内部の個人も含むことに注意が必要です。
本稿では、労働者の個人情報の取り扱いについて、留意すべき点を説明します。
採用時
労働者を採用するに際しては、履歴書や採用面接等において応募者の個人情報を取得します。
この点、職業安定法5条の5第1項は、求職者等の個人情報を収集・保管・使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、当該収集の目的の範囲内でこれを保管・使用しなければならないとしています(本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない)。
これを受けた指針では、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となる事項、思想・信条、労組への加入状況については、特別な職業上の必要性の存在等業務の目的達成に必要不可欠で、収集目的を本人から示して本人から収集する場合を除き、取得してはならないとしています。
なお、本人がSNSで公開している情報は、本人により公開されている個人情報として、同意なく取得が可能ですが、第三者のSNSやネット上の投稿等から取得する場合には、本人以外の者から収集する場合にあたり、本人の
同意が必要とされます。
本人の病歴は「要配慮個人情報」とされており、原則として取得に際して本人の同意が必要です。
また、取得する病歴は、採用の可否を判断するために必要な範囲( 就労能力や事業者の対応の可否等に関連するもの)にとどめなければなりません。
そういう観点から、メンタル疾患による休職の有無などを尋ねることは一応許容範囲であると考えられます。
在職中
労働者の個人情報を同意なく第三者に提供することは、個人情報保護法に違反するとともに、プライバシー侵害に該当する可能性があります。
例えば、個人使用の携帯電話の番号を正当な理由なく、本人に無断で第三者に伝えることは避けるべきです。
また、リモートワークの普及に伴い、カメラ、P C 等で機械的にモニタリングする場合にも、必要な目的を超えて個人情報を取得・保存しないように留意する必要があります。
「要配慮個人情報」とされている健康診断の結果等の保存については、労働安全衛生法で事業主に義務付けられていることから、取得・保管に本人の同意は不要であるものの、労働者の健康の確保に必要な範囲でなければなりません。
この点については、厚生労働省が「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」や「事業者における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」を、個人情報保護委員会が「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」を公表しているので、参考にしてみてください。
昨今、多くの職場でメンタル不調で休職や退職に至るケースも少なくありませんが、本人の同意なく不必要に病気の詳細を公表することは避けましょう。
また、懲戒処分をする際も、懲戒を受けた労働者の氏名等の社内公表については、名誉やプライバシーの観点から、社会的相当性が認められない場合もあるため、慎重な姿勢が必要です。
退職後
退職後も労務管理の必要性から個人情報を保管することがあるほか、労働基準法は労働関係に関する重要書類の5 年間の保存を求めていますので、適切な取扱いが必要です。
「前職調査」として、既に退職した労働者の応募した会社から、経歴や勤務状況の確認を求められることがあります。
第三者から応募者の個人情報を取得する際には本人の同意が必要であることは前述しましたが、照会を受けた側としても、これに回答することは退職した労働者の個人情報を第三者提供することになりますので、本人の同意なく回答することは避けてください。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年4月5日号(vol.302)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。