2026.4.16

従業員の退職にかかる使用者対応の留意点

従業員の退職の場面において、使用者としてはトラブルなく退職手続を進めたいところです。


今回は、退職を考えている従業員から弁護士が相談を受けるような内容をQ&A方式にし、使用者としては、どのような点に留意して対応をしたらよいかを解説します。

退職代行の利用

従業員

退職代行を利用して、使用者に退職の意思を伝えることは問題ないでしょうか。

弁護士

退職の意思を伝えてもらうだけであれば問題ありません。
しかし、退職条件の交渉等は、弁護士でないとできませんので、そのような場合は、弁護士に依頼しましょう。

解説

退職の意思表示は、使者(=あくまで本人の意思を伝達する役割を担うだけの立場の者)を通じてなされたものも有効とされます。


一方、「弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で、法律事件について法律事務を取り扱うこと」(いわゆる「非弁行為」)は、弁護士法において禁止されています。

この点、退職日の調整や、退職金の金額、有給休暇の消化、未払賃金の請求等といった退職に関する交渉を行うことは、基本的に法律事務に該当すると考えられます。


そのため、①従業員から退職代行を利用して退職の意思表示がなされた場合、使用者は、まずは、同退職の意思表示について有効な意思表示として受け入れる必要があります。

その際は、退職代行業者の身元を確認すること、また、退職代行業者に対して本人からの委任状の提出を求める等はしたほうがよいでしょう。

②一方、さらに進んで、退職代行業者から退職条件にかかる交渉がなされた場合には、使用者としては、弁護士法の抵触を指摘して応対を拒否してよいでしょう。

有給休暇の買取

従業員

退職にあたり、残りの有給休暇を使用者に買い取ってもらいたいのですが、可能でしょうか。

弁護士

就業規則に退職時の有給休暇の買取が義務として規定されている場合は、買取を求めることができます。反対に、就業規則に規定されていない場
合は、使用者に買取義務はないため、使用者が任意に応じてくれる場合を除いては難しいでしょう。

解説

使用者による有給休暇の買取は、それを認めてしまうと、金銭により労働者の休息を使用者側で奪えることになってしまうため、原則として認められません。

ただし、例外的に、認められる場面があり、そのうちの1つが退職時です。


もっとも、有給休暇の買取は、「認められる」という話にとどまり、「買い取らなければならない」という買取義務までは、就業規則で規定されている場合を除き、使用者にはないと考えられています。


したがって、①退職する従業員から有給休暇の買取を求められた場合、使用者は、就業規則で規定されている場合を除き、買取を拒否することが可能です。

②もっとも、有給休暇の買取は、退職日を早めることで使用者側の社会保険料の負担の軽減になる、従業員の円満退社につながる等、状況によっては、使用者側にもメリットが存在する場合もあります。

そのため、使用者としては、就業規則の規定の有無だけで形式的に判断するのではなく、状況に応じて、有給休暇の買取に応じるか否かを検討する必要があるでしょう。

退職後の競業避止義務

従業員

退職にあたり、使用者から、退職後の競業避止義務を定めた誓約書にサインするよう求められています。サインしないといけないのでしょうか。

弁護士

サインをしなければならない法的な義務までは必ずしもないと考えられます。

もっとも、今後、誓約書に抵触する可能性のない場合や、誓約書の内容の一部を修正してもらえれば内容に応じることができる場合に、一方的にサインを拒否する必要もないと考えられますので、使用者とよく協議し、双方が納得のできる解決を目指すことが大切です。

解説

退職により労働契約が終了することや、憲法上の職業選択の自由との関係から、退職した従業員は当然に競業避止義務を負うものではないと考えられています。


そのため、使用者において、退職後の従業員に対しても競業避止義務の効力を及ぼしたい場合には、その旨の誓約書を取得することや、就業規則でその旨を規定しておくことが必要です。

ただし、その場合も、期間や地域等の内容から従業員に対する過度な制約と評価される場合には、無効と判断される可能性があることから、競業避止義務の内容は合理性の認められるものにしておく必要があります。


また、誓約書を取得する場面で誓約書のサインに難色・懸念を示している従業員に対して、使用者として強行的に取り付けを図ろうとすることは、かえって従業員の態度をかたくなにさせ、取り付けが困難になることが多いように思います。

使用者としては、誓約書の趣旨を丁寧に説明するとともに、従業員が懸念している点も確認しながら柔軟に対応する姿勢が求められます。


使用者としては、①まず、従業員に対して退職後も競業避止義務を及ぼす必要性があるかを検討する、②必要性がある場合は、誓約書の取得や、就業規則での規定を行う、③その際の競業避止義務の内容は、合理性の認められる範囲に留める、④従業員の意向も踏まえつつ、双方が納得のできる解決を目指す、ということが大切です。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年2月5日号(vol.312)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 山田 真也

山田 真也
(やまだ しんや)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
国立大学法人において倫理審査委員会委員(2021年~)を務める。
主な取扱分野は、離婚、相続、金銭問題等。そのほか民事、刑事問わずあらゆる分野に精通し、個人のお客様、法人のお客様を問わず、質の高い法的サービスを提供するように心掛けています。

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