2024.11.11
LGBTに関する企業の取り組み(弁護士:山田真也)
令和5年6月23日、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が公布・施行されました。
同法においては、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解の増進に関し「事業主の努力義務」が明記されるなど、企業に対してLGBTに関する理解を求める政府の姿勢が示されています。
LGBTとは
「LGBT」とは、Lesbian(レズビアン、同性を好きになる女性)、Gay(ゲイ、同性を好きになる男性)、Bisexual(バイセクシュアル、両性を好きになる方)、Transgender(トランスジェンダー、生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と性自認が一致しない方)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつとして使われる言葉です。
近年は、LGBTに「Q u e e r 」( クイア)、「Q u e s t i o n i n g 」(クエスチョニング)を加えた「LGBT」と表現されることや、LGBTに代わり「SOGI」(Sexual Orientation and GenderIdentity)という言葉で表現されることもあります。
LGBT理解増進法の内容
LGBT理解増進法は、性的指向(=恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向)及びジェンダーアイデンティティ(=自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識)の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的として制定されました。
事業主に関しては、同法の中で、次のとおり規定されています。
①「事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。」(同法6条1項)
②「事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」(同法10条2項)
①、②ともに「努めるものとする」とあるように「努力義務」にとどまり、違反した場合の罰則規定までは設けられていません。
考えられる企業の取り組み
企業としてLGBTに関して具体的にどのような取り組みが考えられるかについては、厚生労働省が「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」を作成し公表しています。
同事例集で紹介されている企業の取り組み事例の一部をご紹介します。
【1】方針の策定・周知や推進体制づくり
●就業規則に性的指向・性自認に関する差別禁止を明記している。
●推進体制として、人事担当部局の中で性的指向・性的自認に関する担当者を決めて取り組んでいる。
【2】研修・周知啓発などによる理解の増進
●LGBTに関する法人内研修を実施している。管理者や人事労務管理担当者に対しては、外部で実施されている研修を活用し、さらに理解を深めるように取り組んでいる。
●管理職全員を集め、外部講師を招いた研修を実施した。
【3】相談体制の整備
●ダイバーシティ&インクルージョン推進室を相談窓口としているほか、外部の相談窓口業務を当事者団体に委託している。
●ハラスメント対応に関する相談窓口と福利厚生制度の相談窓口を設けている。いずれも社内の窓口で、匿名での問い合わせが可能となっている。
【4】採用・雇用管理における取組
●採用ポリシーにおいて差別を行わないことを明記している。
●面接官向けのガイドラインを策定し、カミングアウトの強制の禁止やカミングアウトを受けた際の対応方法等を規定している。
【5】福利厚生における取組
●婚姻同等の関係にある同性カップルや、異性間・同性間を問わず事実婚をした社員に対して、「結婚休暇」の付与、「結婚祝金」の贈呈、「出産祝金」の贈呈を認めている。
●パートナーの申告等各種の人事手続をアウトソーシングすることで、他の社員の目に触れることなく制度の利用が可能になるようにしている。
【6】トランスジェンダーの社員が働きやすい職場環境の整備
●トイレの利用については、性自認に基づいて希望するトイレを使用できることにしている。
●服装については、性自認が多様であることを尊重し、多様な性を考慮した運用を行うことにしている。
【7】職場における支援ネットワークづくり
●研修を受講するなど、性的指向・性自認に関する取り組みに何らかの形で関わった社員に対して、自分がアライ(性的マイノリティを理解し、支援しようとする人)であることを表明できるシールを配布している。
上に記載しました取り組みは、あくまで各企業の取り組み事例の一部にすぎず、各企業において同様に実践することが必ずしも適切であるとは限りません。企業において対応を検討するにあたっては、各企業に適した対応、該当する社員の希望に応じた対応を個別に検討することが求められます。
留意事項(アウティング)
本人の同意なく、その人の性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露することを「アウティング」といいます。
アウティングは、「パワーハラスメント」に該当する場合があるとされる行為です。
企業としてLGBTに理解のある対応は求められるところではありますが、本人の意思・意向を無視し、その情報を本人に同意なく第三者に伝えてしまうことは、たとえそれが「良かれ」という思いによるものだったとしても、アウティングに該当するとされていますので、注意が必要です。
【参考】
・厚生労働省 都道府県労働局 「多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて~性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内~」https://www.mhlw.go.jp/content/000808159.pdf
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」(令和元年度 厚生労働省委託事業)https://www.mhlw.go.jp/content/000630004.pdf
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年9月5日号(vol.296)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。