2025.2.21
生成AIサービス利用と著作権法、個人情報保護法との関係

技術進歩のスピードはめまぐるしく、生成AIの進歩に様々な規制が追いつかず、問題点自体も十分整理尽くされていないのが現状かと思いますが、本日時点で指摘されている法的な注意点について解説したいと思います。
生成AIについて
人間の自然言語や画像などによる指示を受け、文章や画像等の様々なコンテンツを生成するAIのことを生成AIと呼んでいます。
一般的には①AIによるデータ学習②ユーザーによるプロンプト(出力指示 生成AIとの対話においてユーザーが入力する指示や質問)の入力③成果物(コンテンツ)の出力、という流れが想定されます。
著作権等知的財産との関係
著作権侵害の問題については令和6年3月15日文化審査会著作権分科会法制度委員会が発表した「AIと著作権に関する考え方について」にて考え方が整理されています。
著作権法では、著作物の利用に際し原則として著作権者の許諾を必要とする建付になっていますが、権利者の了解を得ずに利用できる例外規定を複数設けています(権利制限規定)。
そして同法30条の4は以下のように定めています。
<第30条の4>
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
この条項中にある「次に掲げる場合」の1つとして2号は以下のとおり定めています。
2 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合
わかりにくいですが、著作権法は思想・感情を享受する目的を有する場合には権利制限規定の適用がなく著作権者の許諾がない使用は著作権法違反にあたるとしています。
一方、情報解析の用に供する場合など思想・感情を享受する目的を有しない場合には、著作権者の利益を不当に害しなければ、権利制限規定が適用されます。
もっとも、「思想・感情を享受する目的」と「情報解析の用に供する目的」は併存することがあり得ます。その場合には、「思想・感情を享受する目的」があるため同条の要件を欠くことになります。
まずAIにテキストや画像を学習させる場面を考えると、「情報解析」に含まれると考えられ、問題が表面化することは少ない(少なくとも利用者の立場では少ない。)と思われます。
次に生成AIにより生成物を出力し、生成物が利用される場合は、従前の、人間がAIを使わずに行う創作活動の際に著作権侵害があるか否かを検討することとほぼ同様に考えることになります。
すなわち、著作権侵害の有無は「依拠性」(他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いること)と「類似性」(原著作物の表現の本質的な直接感得できること)により判断されることになりますが、生成AIによる成果物も同じ要件で判断することになります。
依拠性については、プロンプトに入力した当該著作物が生成されたコンテンツに反映されていれば、依拠性は明らかです。
この場合は類似性の有無のみを判断することとなります。
個人情報保護法との関係
個人情報保護委員会は令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表し問題点を整理しています。
個人情報取扱事業者における注意点は次のとおりです。
❶ 個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。
❷ 個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。
そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
各事業者は個人情報保護の取扱いを定めた個人情報保護規程等を整備し、若しくはプライバシーポリシー等で個人情報の利用目的を定めていると思いますが、生成AIへの入力等が利用目的の範囲内となるよう注意する必要があります。
また、個人情報保護法上、個人の同意を必要とする第三者への「提供」とは、個人データ等を自己以外のものが利用可能な状態に置くことを指します。
単なるデータベースへの入力・管理と異なり、個人情報を含むプロンプトの入力をした場合には、入力した個人情報が、当該生成AIサービス事業者による機械学習に利用される可能性が否定できません。そのため、サービス事業者がプロンプトとして入力された個人データ等を機械学習のために利用できない設定となっているか、確認をする必要があります。
さいごに
今回は著作権法と個人情報保護法との関係を説明しましたが、これ以外にも生成AIを利用する際に注意すべき事項が多岐にわたり、また、今後新たな問題点が指摘されることも考えられます。
現在、生成AIの利用自体を否定したり、利用を停止することは現実的ではありませんが、様々なリスクを抱いることを理解いただければ幸いです。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年12月5日号(vol.299)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。