2025.1.6
フリーランス新法を守ろう!(弁護士:橘 里香)
フリーランス新法こと「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が令和6年11月1日から施行されました。
個人で働くフリーランス(=特定受託事業者)は事業者との関係で弱い立場に置かれやすいとの問題を踏まえ、新たな法律が整備されました。
その概要は、取引の適正化のための2つの義務と7つの禁止行為及び就業環境の整備のための4つの義務です。
法律の概要をみていきたいと思います。
対象
【1】フリーランス(=「特定受託事業者」)
法律上はフリーランスのことを「特定受託事業者」と呼びます。
法律で対象とする「特定受託事業者」の要件は、①個人であって、従業員を使用していないもの②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(例:法人なりした一人社長)です。
但し、①「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を言い、これに当たらなければ従業員を使用していてもフリーランスとして保護対象となります。
また、同居親族のみを使用している場合は「従業員を使用」に該当しないとされることから、この場合も①を満たし、保護対象となります。
【2】発注事業者
発注事業者は、「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」の2種類に分けられます。
⑴ 特定業務委託事業者
「特定業務委託事業者」とはフリーランスに業務委託する者で、
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、役員がいる、または従業員を使用するもの
のことをいいます。
つまり企業のことを指し、大企業や中小企業など企業の規模は関係ありません。
⑵ 業務委託事業者
「業務委託事業者」とはフリーランスに業務委託する事業者のことをいいます。
ここでのポイントは、発注者側もフリーランスである場合も規制があるということです。
例えば、フリーランスがフリーランスに再委託する様な場面です。
但し、この場合は法律のすべての義務が課されるわけではなく、唯一、取引条件の明示義務だけが課される形となります。
【3】対象取引
法律の対象は、「事業者からフリーランスへ」の「業務委託」です。
ですので、消費者からの委託や、委託ではなく、フリーランスが不特定多数人(事業者や消費者)に対して行う売買については、対象となりません。
義務
【1】取引の適正化のための2つの義務と7つの禁止行為
⑴ 取引条件の明示義務(第3条)
書面か電磁的方法(メール、SMS、チャットツールなど)で下記事項を明示する必要があります。
①発注事業者とフリーランス、各自の名称
②業務委託をした日
③業務の内容(品目、品種、数量、規格、仕様などの明示)
※知的財産権の譲渡や許諾を含む場合は、その譲渡許諾の範囲も明示が必要となります。
④納期
⑤給付の受領場所又は役務の提供場所
⑥給付内容について検査を行う場合の検査完了期日
⑦報酬の額と支払期日
⑧現金以外の方法で報酬を支払う場合の支払い方法
⑵ 期日における報酬支払義務(第4条)
給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払い期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません。
但し、再委託の場合など、一部の場合には例外が定められています。
⑶ 7つの禁止行為(第5条)
①受領拒否( 例:「いらなくなったから…」)
②報酬の減額( 例:「予算が削られたから〇〇円で…」)
③返品( 例:「売れ残ったから返すね…」)
※但し、不良品の場合は受領後6か月以内に限り返品可
④買いたたき( 例:通常の対価から乖離した金額を押し付け)
⑤購入・利用強制( 例:関連会社の〇〇を買ってね)
⑥不当な経済上の利益の提供要請 (例:「これもついでにタダで…」)
⑦不当な給付内容の変更・やり直し( 例:受領後に、検査基準を恣意的に厳しくする)
【2】就業環境の整備のための4つの義務
⑴ 募集情報の的確表示義務(第12条)
フリーランス募集の広告について、①虚偽記載や誤解をさせる表示は禁止され、②正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
⑵ 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)
6か月以上の期間で行う業務委託については、フリーランスから申出があった場合、①申出内容等を把握し、②取り得る選択肢を検討し、③配慮の内容または、配慮できない理由などを伝達しなければなりません。
配慮を求められたことでの不利益取り扱いも禁止されます。
⑶ ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)
ハラスメントの相談対応のための体制整備その他必要な措置を講じなければなりません。
また、相談を理由とした不利益取り扱いも禁止されます。
⑷ 中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)
6か月以上の期間で行う業務委託について、契約の解除または不更新を行う場合、(例外事由に該当する場合を除いて)解除日または期間満了日から30日前までにその旨の予告をしなければなりません。
また、フリーランスから解除理由を求められた場合、(例外事由に該当しない限り)遅滞なく理由を開示しなければなりません。
違反の場合
公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に違反申出があった場合、行政機関は報告徴収・立入検査、指導・助言の他、勧告や勧告に従わない場合には命令・公表することができます。
また、命令違反には50万円以下の罰金が可能です。
まとめ
働き方も多様化し、フリーランスで働くという方も増えてきました。
企業もHPの作成や、広報資料の作成など、フリーランスの方に業務をお願いする場面もあるかと思います。
法律を知らずにトラブルとならないよう、この機会に新法の内容を再確認していただければと思います。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年11月5日号(vol.298)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。