円滑な第三者承継に向けて 第 2 回 ~譲り渡し側企業が意思決定前に把握・準備すべき事項~(弁護士:朝妻太郎)

 

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

 

第1回の記事はこちら

 

今回は、事業を譲り渡す側の企業が、最初に考えておくべき視点について、中小M&Aガイドラインの説明を参考に見ていきます。

顧問弁護士・顧問税理士への相談・財務状況の確認

事業の承継を考えた際、まずは、顧問弁護士や顧問税理士等への相談を検討されると思います。

または、M&A仲介業者に直接ご相談される方もおられるかもしれません。

大切なことは、御社の事業概要・現況について共有し、適切なスキーム構築を図ることです。

最初の段階で細部について漏れなく伝えることは困難かと思いますが、大まかな事業内容(特に、承継の対象となる中心事業の概要、強み・弱み、業界の情勢等)、財務状況、関係する金融機関・取引先等ステークホルダーの状況については相互理解を持つことが肝要です。

例えば、極端な例ですが債務超過企業が事業承継を図る場合と、資産超過企業の承継の場合とでは、承継スキーム構築の方法が全く異なりますし、ステークホルダーへの説明方法・タイミングも違います(債務超過の場合にステークホルダーへの説明方法を誤ると、悲惨なことになりかねません。)。

また、承継に向けた経営改善等(一般的に「磨き上げ」と言ったりします。)も考えていかなければなりません。

後継者が不在であることの確認

代表者は第三者承継の意向を固めていても、親族内で承継意欲を持つ方がいる場合もあります。

事前に了解を取っておくことが後のトラブル防止になりうる一方、外部へ情報漏洩リスクに配慮することも必要で、ケースバイケースの対応となります。

株主の状況、事業用資産、許認可等の状況の確認・整理

 

株式が分散していたり、代表者と意向が異なる株主が存在する場合、事業承継の支障となることが多くあります。

一般的に、株主総会特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)のために、3分の2以上の株式は保有する(もしくは賛同者で固める。)ことが肝要です。

株式買い取りのため、資金計画を練ることも必要です。

また、承継を予定している事業用資産の所有関係(他社から賃貸した物件の有無等)、担保権設定の有無(最近はABL(動産担保融資)の利用で機械類や売掛金に担保権が設定されることも多く注意が必要です。)なども事前に把握すべき事情の1つでしょう。

主たる事業に必要な許認可を承継先が承継できるか、新たに取得する場合の難易も確認が必要です。

確定的な意思決定ができるわけではない

経営者の心理として、自分が築き上げてきた事業を第三者に譲る意思決定をすることは並大抵のことではありません。

しかし、承継先の選定とその後の手続には、数か月から1年程度の時間を要することが見込まれます。

ですので、確定的な意思決定ができなくとも、早めに検討を始めた方が良いことは間違いありません。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年9月5日号(vol.248)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

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一新総合法律事務所では、案件ごとに、依頼会社の予算感やM&Aの規模感などから適切な関与の程度と費用を見積もり、ご提示し、ご納得いただいた上で関与させていただいております。

貴社のM&Aが成功裏に終わり、事後のトラブルをできるだけ回避できるよう、法的な側面について、弁護士に相談することを是非一度ご検討下さい。

 

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