中小企業の株主総会運営・事務に関して(弁護士:勝野照章)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 勝野 照章

勝野 照章
(かつの てるあき)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:長野県 
出身大学:信州大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故、金銭問題等。また、刑事事件では31年2月に無罪判決(確定)を獲得し、現在も数多くの刑事事件で私選弁護人を務め、全力で依頼者の利益を追求しています。
所外の活動としては、長野青年会議所の理事を務め、長野県の発展に貢献しています。

中小企業における株主総会

日本の企業数の99%以上は中小企業が占めています。

新潟や長野などの地方都市ではこの数字は限りなく100%に近く、ほとんどの企業は中小企業といえます。

中小企業庁による少し古いデータ(2017 年)によると、中小企業の会社所有形態のうちオーナー経営企業が約72%、そのうち外部株主がいないいわゆる所有と経営が一致する企業は全体の約30%とのことです。

そして、この外部株主のいないオーナー経営企業では、従業員数が比較的多い場合でも4割以上の企業が株主総会を開催しない、もしくは書面のみで済ませているというデータがあります(アクセンチュア(株)「平成29 年度我が国中小企業の構造分析及び構造変化の将来推計に係る委託事業報告書(2018 年3月)」)。

株主総会運営の経験不足による問題

株主総会を何ら開催せず議事録などの書面を形だけ作成し、株主総会があったように処理している場合もあります。

この場合株主総会は存在しませんので、訴えの利益がある者であればいつでも誰でも訴えを提起し、株主総会の不存在を主張できてしまいます。

重大な違法行為なのですが、問題になることは多くありません。

少数のオーナー会社の場合問題にする人がいないためです。

しかし、完全な一人オーナー経営であれば問題は発生しないかもしれませんが、オーナー一族何名かで株式を保有しその株主の一人が敵対した場合、またはM&A などによって全株式が第三者に売却された場合などに問題が顕在化する例があります。

少数株主が指摘しやすいのが取締役会や株主総会などの手続違法で、これによって決議自体を無効とできるだけでなく取締役の善管注意義務違反も主張できます。

そこで、問題になりそうな場合に、株主総会を適法に開催し問題なく終わらせるための準備を行うのですが、このような会社ではそれまで会社法に則った適切な株主総会を開催してこなかったため、何をどう準備すればいいのか分からない状況となり、我々に相談がされたところでもその準備に困難が生じる場合があります。

株主総会準備の重要部分

株主総会は、開催までの手続が特に重要と思われます。

株主総会当日は、淡々とシナリオどおりに議事を進行すればよいのですが、株主総会開催前に会社法が規定する手続を怠ると、その違反を治癒することが困難な状況に陥ります。

例えば、株主総会招集通知の発送期限を1日でも徒過したり、株主総会を開催するための取締役会決議がとられていない、招集通知に添付する書類が不足しているといった場合には、株主総会の取消事由となってしまいます。

株主総会開催までの手続

ここで、比較的中小企業に多い会社形態である株式の全部に譲渡制限が付いているいわゆる非公開会社で、かつ取締役会が設置されている会社について、株主総会開催までの基本的な手続を見てみたいと思います。

なお、株主総会開催の手続は、会社法及びその施行規則に規定されているとおり行うことが最も肝要です。

株主総会招集通知は株主総会開催日の1週間前までに、書面又は株主の承認を得て電磁的方法にて通知を発します。

株主総会招集通知には、株主総会の日時及び場所、株主総会の目的である事項があるときは当該事項、また会社法施行規則63条7号のイからタに掲げる事項が株主総会の目的であるときは、当該事項に係る議案の概要が記載されます。

なお、会社法施行規則63条7号のイからタには「計算書類の承認」及び「事業報告の報告」が株主総会の目的である事項である場合については定められていないところ、取締役は「計算書類」及び「事業報告」を定時株主総会の招集に際し提供し、かつ定時株主総会に提出又は提供する必要があります。

また、株主総会招集通知に記載しなければならない事項は、取締役会で定めなければなりません。

株主総会資料の電子提供制度

会社法の改正によって、令和5年3月以降に開催される株主総会から株主総会資料を会社ホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知する株主総会資料の電子提供制度をとることができるようになりました。

昨今、裁判所の手続もウェブ化や電子化が進んでいるところ、会社をめぐる社会経済情勢の変化に伴い、株主総会の運営の一層の適正化等を図ったものとなります。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年7月5日号(vol.282)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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