未払賃金請求の期間延長(弁護士:鎌田大輔)

賃金請求権の消滅時効期間の延長

令和2年3月27日、「労働基準法の一部を改正する法律」が成立し、同年4月1日より施行されました。

これにより、労働基準法(以下「労基法」という)における賃金請求権の消滅時効期間等が延長されるとともに当分の間の経過措置を講ずることとされました。

 

※画像をクリックすると拡大します※

改正の背景

⑴ 民法の規定に対する特例

これまで、民法では、賃金請求権の消滅時効は1年と定められていました(改正前民法174条1項)。

これに対し、労働者にとって極めて重要な債権の消滅時効が1年では労働者の保護に欠けるとして労基法により短期消滅時効の特例を設けることになり、賃金請求権の消滅時効は2年となりました(改正前労基法115条)。

 

⑵ 民法改正の影響

令和2年4月1日より、改正された民法が施行されることになりました。

そして、この改正により、民法の短期消滅時効は廃止され、賃金請求権の時効は原則5年となりました。

改正民法施行により、元々、民法上の消滅時効期間では保護に欠けるとして特例として設けられたはずの労基法上の消滅時効期間よりも民法上の時効期間の方が保護が厚くなってしまうという事態となりました。

このような事態をふまえ、従来の賃金請求権の期間を見直す必要が生じ、労基法も消滅時効を5年(当分の間は3年)とすることとなりました。

 

改正のポイント

⑴ 賃金請求権の消滅時効期間の延長

賃金請求権の消滅時効期間を5年に延長しつつ、当分の間はその期間が3年になります。

 

⑵ 賃金台帳などの記録の保存期間の延長

賃金台帳などの記録の保存期間を5年に延長しつつ、当分の間はその期間が3年になります。

 

⑶ 付加金の請求期間の延長

付加金を請求できる期間を5年に延長しつつ、当分の間はその期間が3年になります。

なお、付加金とは、裁判所が労働者の請求により、事業主に対して未払賃金に加えて支払を命ずることができるものです。

 

改正前 改正後
賃金請求権の消滅時効期間 2年

5年

(当分の間は3年)

記録の保存期間 3年

5年

(当分の間は3年)

付加金の請求期間 2年

5年

(当分の間は3年)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延長の対象になるもの

⑴ 賃金請求権の延長の対象となるもの

金品の返還(労基法23条、賃金の請求に限る)、賃金の支払(労基法24条)、非常時払(労基法25条)、休業手当(労基法26条)、出来高払制の保障給(労基法27条)、時間外・休日労働等に対する割増賃金(労基法37条)、年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)、未成年者の賃金(労基法59条)

 

⑵ 記録保存の延長の対象となるもの

労働者名簿、賃金台帳、雇入れに関する書類、解雇に関する書類、災害補償に関する書類、賃金に関する書類、その他の労働関係に関する重要な書類、労働基準法施行規則・労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記録

 

⑶ 付加金の請求期間の延長

・付加金制度の対象となるもの
解雇予告手当(労基法20条1項)、休業手当(労基法26条)、割増賃金(労基法37条)、年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)

 

対象となる期間

上記の期間の対象となるのは、令和2年4月1日以後に支払期日が到来するものになります。

令和2年3月31日までに支払期日が到来していたものについては、時効期間延長の対象とならず、従来の時効期間が適用となります。

そのため、改正により延長はされず、消滅時効が完成してしまっていたら請求ができなくなる点には注意が必要です。

最後に

以上が改正にあたっての概要になります。

令和2年4月1日以後に支払期日が到来する賃金請求権等については、従来の期間よりも消滅時効期間が長くなっています。

使用者としては、今後、賃金の未払額を放置すれば、時効期間が延長される分、労働者側から訴えがあれば従来よりも多額の支払に対応しなければならない危険 性があるかと思います。

 

一方で、労働者側としては、今回の改正により、令和2年3月31日以前に支払期日が到来した賃金請求権について消滅時効期間の延長の対象となら
ない点に注意が必要かと思います。

賃金に関し未払のものがあれば、早めに請求することをお勧めいたします。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年8月5日号(vol.247)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

/ /