2021.12.17
所有者不明土地の解消に向けた 民法の改正等(弁護士:今井 慶貴)
立法の背景
今年(令和 3 年)4 月に、所有者不明土地の解消に向けた民法・不動産登記法の改正法と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)が成立しました。
背景としては、所有者不明土地(登記簿から所有者が直ちに判明しない、所有者の所在が不明な土地)の割合が国土の 22%にも達し(平成 29 年国交省調査)、所有者の探索コスト(時間・費用)、土地の放置、土地の管理・利用に支障が生じており、深刻化も懸念されることから、その解決を図るものです。
所有者不明土地の原因は、相続登記の未了が 66%、住所変更登記の未了が 34%とされており(上記調査)、登記を促進することにより発生を予防することを中心として、土地を手放す制度、土地・建物の利用円滑化を図るための制度が整備されました。
法律のあらまし
その1. 登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し
第 1 に、相続登記の申請が義務化されます。
不動産を取得した相続人に対し、取得を知った日から 3 年以内の相続登記の申請を義務づけます。
正当な理由のない申請漏れは 10 万円以下の過料の対象となります。
他方で、相続登記の負担軽減も図られます。
まず、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を単独で申し出て添付書面も簡略化する「相続人申告登記」(持分は登記されない)を新設します。
また、登録免許税の負担軽減策の導入が検討されています。
さらに、不動産の把握が容易になるよう、特定の者が名義人となっている不動産の一覧を発行してもらえる「所有不動産記録証明制度」が新設されます。
地方公共団体とも連携し、死亡届の提出者に対する相続登記の必要性の周知・啓発も要請します。
第 2 に、登記名義人の死亡等の事実が公示されます。
登記官が住基ネット等から死亡の情報を取得し、職権で登記に「符号」で表示します。
第 3 に、住所変更未登記への対応がなされます。
所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から 2 年以内に変更登記の申請を義務づけ、正当な理由のない申請漏れには過料を科します。
また、他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権で変更登記をする新たな方策も導入されます。
その2. 土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設
相続または相続人に対する遺贈により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されます。
国庫帰属のハードルとして、一定の要件が設定されており、法務大臣が審査します(詳細は政令で定められます)。
「通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要する土地」に該当しない必要があります。
具体的には、管理等を阻害する工作物等がある、土壌汚染や埋設物がある、崖がある、権利関係に争いがある、担保権等が設定されている、通路など他人よって使用される土地などは対象外です。
また、審査手数料のほか、土地の性質に応じて 10 年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります。
総じて、ハードルは高いといえます。
その 3. 土地利用に関連する民法の規律の見直し
第 1 に、財産管理制度が見直されます。
人単位の不在者財産管理人・相続財産管理人の制度に加えて、所有者不明土地・建物や管理不全土地・建物に特化した新たな財産管理制度が創設されます。
また、従前の相続人不存在の際の相続財産管理人は「相続財産清算人」と名前が変わり、相続人がいても管理をしないときに「相続財産管理人」が選任されます。
第 2 に、共有制度が見直されます。
裁判所の関与のもとで不明共有者等に対する公告等をした上で、残りの共有者の同意で共有物の変更・管理を可能とする制度や、金銭供託により不明共有者の持分を取得するといった制度が創設されます。
第 3 に、相続制度が見直されます。
相続開始から 10 年経過後は、特別受益や寄与分による具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みが創設されます。
第 4 に、相隣関係が見直されます。
ライフラインの設備設置権の明確化や隣地所有者不明状態に対応できる仕組みも整備します。
改正法はいつから?
施行期日は、原則として公布(令和 3 年 4 月28 日)後 2 年以内の政令で定める日(相続登記の申請の義務化関係は公布後 3 年以内、住所等変更登記の申請の義務化関係は公布後 5 年以内)です。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年10月5日号(vol.261)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。