副業・兼業促進時代の企業のリスク管理対策

副業・兼業の現状

厚生労働省は、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえて、副業・兼業の普及促進を図っています。

 

その背景にあるのは、副業・兼業を希望する者の増加、雇用形態の多様化、収入の確保、ス キルアップなど様々な要因が挙げられています。

 

厚生労働省の調査結果によると、本業の所得階層別でみた副業している者の数は、本業の所得が299万円以下の階層で全体の約3分の2を占めているものの、199万円以下の階層と1,000万円以上の階層の割合が比較的高い傾向があることも指摘されています。

 

他方、「平成26年度兼業・副業に係る取組実態調査事業」によれば、副業を認めていない企業は85.3%、推進してないが容認している企業は14.7%となっており、副業・兼業に対する企業の根強い懸念があることも事実です。

 

企業の懸念としては、本業がおろそかになる、 情報漏洩のリスクがある、競業・利益相反の可能性がある、長時間労働に繋がる、労務・労働時間の管理が難しいなどが挙げられると思います。

このような現状から、厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や「モデル就業規則」などを定めて、企業と労働者の双方の利益を守りつつ、副業・兼業の促進を図っています。

 

就業規則の整備と届出制

就業規則に副業・兼業の規定がない会社も多いですが、労働者が無断で兼業しないように就業規則を整備する必要があります。

 

厚生労働省モデル就業規則は、以下のように副業・兼業に関する就業規則を届出制にすることにより、労働者が勤務時間外で他の会社の業務に従事することが原則として可能としています。

また、①労務提供上の支障がある場合、②企業秘 密が漏洩する場合、③会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により、企業の利益を害する場合に該当する場合には、副業・兼業を禁止又は制限できると規定し、企業側の利益にも配慮しています。

 

(副業・兼業)

第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

 

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、 事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

 

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁 止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

 


2項で副業・兼業に労働者からの届出を求めているのは、労務提供上の支障がないかや企業秘密の漏洩がないかを判断するだけでなく、長時間労働を防止することも目的としています。

 

労働時間は、事業場を異にする場合においても通算される扱いとなっているので、企業が労働者の労働時間を適切に管理するためには、事前に届出書を提出させて実態を把握する必要があるのです。届出書に記載させるべき内容としては、次の事項が考えられます。

 

 

①副業先に関する情報(会社の名称、住所、電話 番号など)

②副業先の業務内容

③副業先での担当する職務

④副業期間

⑤副業先での就業日、就業時間

 

 

企業の対策

厚生労働省のガイドラインでは、労働者の副業・ 兼業の内容の確認にあたっては、労働者から必要以上の情報を求めることがないように注意喚起しています。

これは、本来、就業時間以外は、労働者の自由な時間であることを念頭に置いているからだと思います。

 

ただ、企業からすれば、労働者の副業・兼業によって企業秘密が漏洩されたり、競業関係にある同業他社に従事させたりすることは避けたいところです。

 

また、労働者も副業・兼業による長時間労働で体調を崩したり、本業の会社から不信感を持たれたりすれば、雇用継続が難しくなることもあると思 います。

 

そこで企業内秩序を保ちつつ、企業のリスクを回避するためには、事前に副業・兼業届出書を提出させるだけでなく、別途、秘密保持契約書や競 業避止義務契約書などを取り交わし、労働者との間での合意内容を明確にしておくことも重要です。

 

例えば、契約書には情報漏洩の禁止、企業秘密のデータ・資料等の持ち出し禁止を明確に規定したり、それに違反した場合には懲戒処分や損害賠償請求の対象となることを規定したりすることが考えられます。

 

また、退職後は、労働者に職業選択の自由があるので、それを全面的に制限することはできませんが、競業避止の内容、地域、期間及び代償処置等を特定して同業他社への転職を一定期間制限する規定を設けることなども考えられます。

 

さらに、副業・兼業を開始後でも、当初予定していなかった本業の労務提供上に支障が生じた場合や企業秘密が漏洩する可能性が出てきた場合には、 速やかに本業の会社に報告し、その指示に従う旨の同意書を求めたりすることも重要だと思います。

 

副業・兼業は、多くの有名企業において認める方向で進められているため、時代の流れからすれば避けられないのかもしれません。

企業の立場からしても労働者に無断で他社に勤務されるよりも、 副業・兼業を認める条件を明確に整備した上で、 人材・情報の流出を防止する方がリスク管理としては適切なのだと思います。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年5月5日号(vol.244)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士

弁護士 細野 希

一新総合法律事務所
弁護士 細野 希

一新総合法律事務所・新潟事務所所属。 2014年弁護士登録。 事故賠償チームに所属。

人に対する思いやりを忘れずに、誠実に対応し、日々勉強と経験を重ねて、信頼される弁護士になれるように努めてまいります。

 

/