「営業秘密の侵害」の内容と事業者として注意すべき点

この記事を執筆した弁護士
弁護士 海津 諭

海津 諭
(かいづ さとる)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:京都大学法科大学院修了
新潟県公害審査委員、新潟県景観審議会委員を務めています。主な取扱分野は、相続全般のほか、離婚、金銭問題、企業法務など幅広い分野に精通しています。
また、『月刊キャレル』(出版:新潟日報事業社)に掲載のコーナー「法律相談室」に不定期で寄稿しており、身近な法律の疑問についてわかりやすく解説しています。

1. はじめに

令和4年9月、回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を経営するカッパ・クリエイト株式会社の田辺社長が、不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたことが、マスメディアで報道されました。

報道によれば、田辺氏は、かつて同業他社である株式会社はま寿司の取締役や、その親会社である株式会社ゼンショーの社員を務めた時期があったところ、はま寿司の仕入れに関するデータなどをUSBメモリに入れて持ち出し、また、カッパ・クリエイト株式会社への入社後に、元同僚から売上データなどを受け取ったとのことです。

今回の逮捕は、田辺氏の行為が、「営業秘密の侵害」にあたるとされたものです。

本稿では、不正競争防止法が禁止している「営業秘密の侵害」について、その内容や、事業者として注意すべき点などを解説いたします。

2. 営業秘密とは

⑴ 営業秘密の保護について

一般的に、事業者は、事業活動における努力の成果として、様々な情報を獲得・保有しています。

事業者が努力の末に得た情報が、同業他社などに不当に取得・使用されてしまうようでは、その事業者は大きな不利益を被ります。

時には、事業の存続にすら影響を及ぼしかねません。

そこで、一定の条件をみたす情報は、「営業秘密」として、不正競争防止法で保護の対象とされています。

事業者が、自らの保有する「営業秘密」を不正に開示、取得、使用などされた場合は、不正競争防止法に基づき、それらの行為をした者に対して、差止めや損害賠償を請求することができます。

また、刑事罰も定められています。

⑵ 営業秘密の要件

ある情報が、「営業秘密」として不正競争防止法の保護を受けるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。

1: 秘密として管理されている。

2:有用である。

3:公然と知られていない。

⑶ 条件1:秘密として管理されていること

ある情報が「営業秘密」にあたるためには、その情報が秘密として管理されている必要があります。

秘密として管理されているかどうかは、様々な事実に基づいて総合的に判断されます。

例えば、機密である旨の記載、施錠管理、閲覧・アクセス制限、パスワード設定、複製制限、その他3(1) で後述するような措置の有無などが、判断の要素となります。

⑷ 条件2:有用であること

「営業秘密」にあたるためには、その情報が有用であることも必要です。

例えば、事業活動に現に用いられている情報や、将来的に役に立つ可能性が客観的に認められる情報であれば、通常は有用であるといえます。

⑸ 条件3:公然と知られていないこと

公然と知られていない情報、言い換えれば、一般的には知られておらず又は容易に知ることができない情報であることも、「営業秘密」として保護を受けるための条件となっています。

3. 事業者が注意すべき事柄

⑴ 注意点1:情報を適正に管理する

事業において外部に流出させたくない情報は、流出防止のため、適正な管理を行うべきです。

また、管理をしていないと、万が一流出してしまった場合、「営業秘密」として不正競争防止法の保護を受けることができません。

具体的な管理方法としては、例えば、以下のような措置を行うことが考えられます。

① 書類について

・「機密」「対外秘」「公開禁止」などの記載をする。

・金庫や施錠可能な棚に保管する。

・限られた従業員にしか閲覧できない扱いにする。

・閲覧や持出しの際に、管理簿に記入させる。

・閲覧のみとして、持出しを禁止する。

② 電子データについて

・限られた従業員しかアクセスできない扱いとし、アクセス時にパスワード入力を求める。

・外部記録媒体への複製保存を禁止する。

・印刷には責任者の許可を要する扱いとする。

・印刷した場合は「機密」等の押印を行うこととする。

③ その他

・外部にコピーを提供する際には、守秘義務契約を締結するか、秘密保持に関する念書を取り交わす。

・秘密を取り扱う従業員に対し、定期的な指導を行う。

・就業規則において、競業避止義務の条項を入れておく。

・特定の情報について口外及び使用しないという念書のひな型を作成しておき、退職する従業員に対して署名捺印を求める。

・必要に応じて、パソコンの操作・接続ログや、メール送受信履歴を確認する。

⑵ 注意点2:情報を取得する際に用心する

事業者にとっては、他社の重要な情報を取得することができれば、その情報を自らの事業にも有効に活用できることがあります。

しかし、その他者の情報が不正に流出した営業秘密であって、かつ、その不正に流出したことを、情報取得者が知っていた場合又は知らなかったことについて重大な過失がある場合は、情報取得者も、不正競争防止法違反に問われかねません。

そこで、他社の営業秘密と考えられるような情報を取得する場合には、例えば、次のような点を用心すべきです。

・前の勤務先で得た情報をアピールする中途採用応募者については、秘密として管理されていた情報でないか、また、競業避止義務を課されていないかを確認する。

・情報取扱業者から情報を購入する場合、それが不正に流出した情報でないか留意する。

・たとえ親交のある間柄でも、他社の役員や従業員から、営業秘密に該当しそうな情報の提供を無闇に受けない。

4. 結び

自らの営業秘密を守り、また、自らが不正競争防止法違反に問われてしまわないためには、法律を適切に理解して対応していく必要があります。

具体的なアドバイスや対応をご希望の場合は、ご遠慮なく、一新総合法律事務所にご相談ください。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年11月5日号(vol.274)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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