2022.9.5

18歳成人、親としてできること(弁護士:橘 里 香)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市
出身大学:青山学院大学法科大学院修了

主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。
そのほか企業法務、相続など幅広い分野に精通しています。メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

令和4年4月1日から民法の一部を改正する法律が施行され、成年年齢が18 歳に変更になりました。

選挙権については、成年年齢引き下げに先駆けて法改正がなされており、既に「満18歳以上」に引き下げられていましたが、この度、成年年齢が引き下げられました。

成年年齢引き下げは、若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促すという目的から行われた改正です。

しかし、法律家の観点からは、心配される点も多くあります。

未成年者が親の同意なく行った契約を取り消せる未成年者取消権は、これまで若者を消費者被害から守るための切り札でした。 しかし、成年年齢引き下げにより、18歳以上には使えなくなってしまいました。

何が変わる?

まず、成年年齢引き下げで、どんな影響があるかを見ていきましょう。

⑴ 変わったこと(出来るようになったこと)

① 親権に服しない

これにより、自分の住む場所は自分で決められる、進学や就職も親の同意なく自分で決められることになります。

② 親の同意なく契約可能

全ての契約を親の同意なく自身の判断で行えることになります。

携帯の契約、アパート契約、クレジットカード契約などが18歳から親の同意なくできるようになります。 ただし、若年者の消費者トラブル等が増加する心配もあります。

⑵ 変わらない(出来ないこと)

成年年齢が引き下げられた後も変わらないことがあります。

飲酒・喫煙・競馬競輪等の行為は依然として20 歳までできません。

国民健康保険料の納付も変わらず20 歳からです。

また、養育費の終期に関しては、法務省はHPで次のように説明しています。

「養育費は、子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので、子が成年に達したとしても、経済的に未成熟である場合には、養育費を支払う義務を負うことになります。

このため、成年年齢が引き下げられたからといって、養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。

例えば、子が大学に進学している場合には、大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます。」 理屈上はあまり影響ないとも考えられますが、実際の判決でどのように判断されるのか、実務上の影響の有無は判例の集積を待つしかないところです。

その他

成年年齢の引き下げと併せて、女性の婚姻可能年齢も16歳から18歳に変更となり、男女ともに18歳以上でないと結婚できないことになりました。

親としてどうしたら良い?

18歳から子ども単独で色々な契約を行えるようになります。

親が同意を拒否して、契約を止めることは従前のようにはできません。

では、子どもを守るためにはどうすれば良いのでしょうか?

親ができること、それは正しく子どもに危険なこと、注意すべきことを教えることです。

次の点について親世代も正しく学び、子どもにも伝えていきましょう。

(1)契約は口頭でも成立する(特定の契約類型を除き)

契約というと契約書にサインして判子を押すとお考えの方もいるかと思いますが、法律上は、意思表示の合致があれば契約成立です。

口頭又はメールやLINE上のやりとりでも成立します。

まずは、この原則を知っておきましょう。

単なるLINE上のやり取りだからと安易に了承すれば、契約が成立していると言われる場合もあるのです。

契約書の形でないからと安易に考えて約束をしてしまわないよう注意が必要です。

(2)契約は取り消せる場合もある

次に、知っておくべきことは、サインしてしまった後でも契約を取り消せる場合があるということです。

特定商取引法上一定期間はクーリングオフができる場合があります。

クーリングオフ期間は販売方法により様々ですが、例えばエステなどの特定継続的役務提供は法定の交付書面を受け取ってから8日間は無条件で契約解除できます。

マルチ商法(連鎖販売取引)は20日間可能です。

また、法定交付書面の内容に不備があれば上記期間後でも取り消せる場合があります。

契約してしまって後から不安になるということはよくあることです。

取り消せる場合があることを知っていれば、契約をしてしまっても、そこから親に相談したり、正しい対応に繋がります。

⑶ 話せる関係作りを!

これまで以上に親子の信頼関係が大切となってきます。

子どもを守るために親ができること、それは正しい知識と対応をきちんと教え、また、困ったときに相談してもらえる関係性を構築しておくことです。

18歳成年年齢引き下げ、これを機会に、親子の時間、対話、教育について、改めて考えてみましょう。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年7月5日号(vol.270)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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