テレワーク推進ガイドラインについて(弁護士:渡辺 伸樹)
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令和3年3月25日に厚生労働省から「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下「新ガイドライン」)が改定・公表されました。
民間企業におけるテレワーク(在宅勤務・リモートワーク)の実施率は、令和2年4月の1回目の緊急事態宣言時には60%近くまで上昇したものの、宣言解除後には30%程度に低下し、2 回目の緊急事態宣言時でも40%弱で推移しています。
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特に中小企業のテレワーク実施率は、いずれの期間も大企業の半分程度の割合で推移しており、大企業に比べてテレワークを導入しづらい状況にあることが見て取れます。(図表1参照)
新ガイドラインでは、ウィズコロナ・ポストコロナ時代を見据えて、テレワークのさらなる推進を図るために、留意すべき点や望ましい取組みを明らかにしています。
今回はこの新ガイドラインから「テレワークの導入に際しての留意点」「労務管理上の留意点」の2点についてご紹介します。
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テレワークの導入に際しての留意点
テレワークを導入するにあたっては、対象業務、対象となる労働者の範囲、テレワーク可能日(労働者の希望、当番制、頻度等)、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法等について、あらかじめ使用者と労働者で話し合い、ルールを決めておくことが重要です。
業務の性質上、そもそもテレワークを実施することが難しい業種や職種があると考えられますが(図表2参照)、そのような業種であっても、個別の業務によってはテレワークで対応できる場合もあるため、テレワークに向かないと安易に結論づけてはいけません。
また、テレワークを実施する際は、労働者本人の納得・了承を得たうえで、実施する必要があります。
対象者の選定にあたっては、正社員・非正規社員といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外してしまうと、不合理な待遇差として法令違反の問題が生じるので注意が必要です。
オフィスに出勤する労働者のみに業務が偏らないよう配慮することも重要です。
テレワークの推進にあたっては、既存業務の見直しやコミュニケーションを円滑化するための取組みが不可欠です。
こうした取組みの具体例として、不必要な押印や署名の廃止、書類のペーパレス化、決済の電子化、オンライン会議や社員間のコミュニケーションソフトウェアの導入などがあげられています。
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労務管理上の留意点
新ガイドラインではテレワークに伴う労務管理上の留意点として、人事評価制度、費用負担の取扱い、人材育成について言及されています。
⑴ 人事評価制度
テレワークは、個々の労働者の業務遂行状況や、発揮された能力を把握しづらい面があることから、人事評価にあたっては、上司が部下に求める水準をあらかじめ具体的に示すとともに、その達成状況について話し合う機会を設けることが望ましいとされています。
テレワークを実施せずにオフィスに出勤している労働者を高く評価することは、適切な人 事評価とはいえません。
⑵ 費用負担の取扱い
テレワークに伴って労働者に費用負担が生じる場合には、費用負担についてあらかじめ使用者と労働者が話し合って、就業規則等でルール化しておくことが望ましいとされています。
例えば、在宅勤務に伴って通信費や電気料金が増加する場合、在宅勤務時間等をふまえて業務に要した割合を合理的に計算し、支給することが考えられます。
⑶ 人材育成
企業は、社内教育や研修によって、テレワーク下で自律的に業務を遂行できる人材の育成に取り組むとともに、あわせて管理職の研修等を行い、管理職のマネジメント能力の向上に取り組むことが望ましいとされています。
こうした社内教育等についても、オンラインを適宜活用して実施することが有効です。
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まとめ
新ガイドラインはあくまでも指針であり、それ自体に法的拘束力があるわけではなく、ガイドラインに違反したことを理由に、直ちに行政処分や民事上の損害賠償責任の対象となるものではありません。
もっとも、大企業を中心にテレワークの活用がスタンダードになりつつある中、テレワークの導入をきちんと検討できるかどうかで、労働者の働き方に対する満足度は確実に変わってきます。
また、テレワークを導入したとしても、適切な労務管理やメンタルヘルスケアを怠れば、従業員の心身の健康悪化の原因につながりかねません。
テレワークの活用方法は、組織によって様々であり、ただ一つの正解はありません。 今回の新ガイドラインを参考に、より良いテレワークのあり方を、社内で検討してみてはいかがでしょうか。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年12月5日号(vol.263)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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