2021.5.11

70歳までの就業機会確保措置(弁護士:角家理佳)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 角家 理佳

角家 理佳 
(かどや りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部
主な取扱分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)、離婚問題、後見等、家事事件に力を入れています。
新潟士業相続センターのメンバーとしての活動や、相続セミナーの外部講師を務めるなど、所内外で相続問題の解決に尽力しています。

 

高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保の措置を講じることが努力義務となります。

施行日は、2021年4月1日です。

事業主に求められる措置

 

今般の改正では、現行の65歳までの雇用確保措置(A.65歳までの定年引上げ、B.定年制の廃止、C.65歳までの継続雇用制度の導入)に加えて、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。

 

<就業確保措置>…雇用による措置

①70歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度導入

 

<創業支援等措置>…雇用によらない措置

④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

 

③の場合、65歳までの雇用確保措置とは異なり、特殊関係事業主だけでなく、他の事業主による雇用も認められます。
また、③④⑤については、対象者を限定する基準を設けることが可能です。

ただし、男性(女性)に限る、組合活動に従事していない者に限る等、法の趣旨に反して恣意的な排除を意図するものや、関係法令に反するものは許されません。

 

また、高年齢者が定年前とは異なる業務に就く場合には、新しく従事する業務に関して研修、教育、訓練等を行うことが望ましいとされています。

特に、雇用による措置を講じる場合には、安全または衛生のための教育は必ず行わなければなりません。

 

この努力義務は、すべての企業に一律に適用されますので、当分の間65歳に達する労働者がいない企業においても、上記措置を講じる努力が求められます。

創業支援等措置について

⑤の「社会貢献事業」とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことです。

例えば、特定の宗教を助長・促進することを目的とする事業や、特定の公職の候補者や政党を支持・反対することを目的とする事業はこれに当たりません。

 

⑤b の「出資(資金提供)等」とは、自社から団体に対して、事業の運営に対する金銭や場所の提供など、社会貢献活動の実施に必要な援助を行うことを言います。

 

⑤b の「団体」は、自社から委託や資金提供等を受けていて、社会貢献事業を実施していれば、どんな団体でもよく、公益社団法人に限られません。
この創業支援等措置を導入する場合、企業は、必要事項を記載した計画を作成の上、過半数労働組合等の同意を得なければなりません。

努力義務の意味

改正法が施行される2021年4月1日時点で、70歳までの就業確保措置が講じられていることが望ましくはありますが、検討中や労使での協議中といった状況でもよいとされています。

また、最初は67歳までの継続雇用制度を導入し徐々に期間を延ばしていく等、段階的に措置を講ずることも可能です。

 

しかし、法が求めているのは、あくまで70歳までの就業機会の確保ですから、その実現まで努力を続けることが必要です。

努力義務だからと言って、努力したけどできませんでした、で終わってしまうのは NGです。

高年齢者が離職するとき

 

現行法では、解雇等事業主の都合により離職する高年齢者等には、再就職支援措置(求職活動に対する経済的支援、再就職や教育訓練受講等のあっせん、再就職支援体制の構築等)を講じるよう努めることとされています。

また、1か月以内に5人以上が離職する場合は、多数離職届をハローワークへ届け出なければなりませんし、希望者には「求職活動支援書」の交付が必要です。

 

今般の改正に伴い、これらの離職時の措置の対象となる高年齢者の範囲も拡大されます。
なお、これらの措置の実施主体は、原則として離職時に対象者を雇用あるいは対象者と業務委託契約を締結している事業主ですが、例外もありますので、注意が必要です。

その他の注意点

①から⑤のいずれの措置を講ずるにしても、労使間で十分協議し、労働者のニーズに応じたものになるようにすることが肝要です。

 

また、企業は、特殊関係事業主等で継続雇用する場合や他の団体で創業支援等措置を講じる場合は、特殊関係事業主や団体との間で、契約を締結する必要があります。

この契約は、書面で締結することが望ましいです。

 

さらに、70歳までの就業確保措置は退職に関する事項に該当しますので、常時10人以上の労働者を雇用する事業主は、就業規則の変更・届出が必要です。

持続可能な企業を目指して

ここまで読んで、なんだか負担が大きいなと感じた経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし、高年齢者に豊富な知識や経験を生かして後進の指導で活躍してもらうことで、若い世代の定着率、生産性の向上に成功した企業もあります。

持続可能な企業となるためにも、ぜひ前向きに取り組んでみてください。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年3月5日号(vol.254)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

 

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