リニア中央新幹線の工事を巡り独禁法違反の疑い(弁護士下山田聖)

企業法務チームの弁護士 下山田 聖 です。

 

先日、エアビーアンドビー社に独禁法違反の疑いがあるとして公取委が立ち入り検査をしたという報道について解説いたしました。

>>エアビー社の事例についてはこちら

 

その後も独禁法に関するニュースが続いています。

 

 

リニア中央新幹線の名古屋市内からの非常口の新設工事をめぐって、大手ゼネコン4社が、JR東海などが発注した工事をほぼ均等に受注していたとされる事件で、東京地検特捜部と公正取引委員会が独占禁止法(独禁法)違反の疑いで捜査を始めたと報じられました。

 

東京地検特捜部は偽計業務妨害の疑いでも捜査を行っていました。

 

今回の事件は、独禁法が規制する行為のうちの「不当な取引制限」、いわゆる「カルテル」に該当する可能性があると判断されたと考えられます。

 

カルテルとは、たとえば、ある街に存在する2軒のおにぎり屋が、話し合いをして自分たちが販売するおにぎりの販売価格の値上げを行うような行為をいいます。

 

 

本来、商品の価格は企業間の競争によって決定されるものです。

 

しかし、2軒のおにぎり屋が合意によって価格競争をやめて人為的に商品の価格を上げれば、一般消費者は不当に高い値段でおにぎりを購入せざるを得なくなり、2軒のおにぎり屋は不当な利益を得ることになります。

 

したがって、自由公正な競争を促進し、経済の健全な発達を目指すことを目的とする独禁法で規制されているのです。

 

 

カルテルは「ハードコアカルテル」と「非ハードコアカルテル」の二類型に分けられることがあります。

 

「ハードコアカルテル」は、行為の外見から競争を実質的に制限することが明らかであり、かつ、その行為を正当化する理由がないものをいいます。

競争者間の価格設定や、今回問題となったような入札談合は、「ハードコアカルテル」の典型例です。

 

一方、競争への影響が明確ではなく、競争にとってプラス(競争促進効果)の効果とマイナス(競争制限効果)の効果の両方があるものを「非ハードコアカルテル」と呼びます。

たとえば、複数の企業が製品を共同開発をする結果、競争が減少するケースがこれに該当します。

非ハードコアカルテルの場合は、競争にとってプラスの効果とマイナスの効果を比較して、独禁法に違反するかどうかが判断されます。

 

 

ハードコアカルテルでは、企業間で合意があったかどうかや、合意があったことをどのようにして立証するかが問題となることが多くあります。

 

たとえば、一方が値上げをしようと持ち掛けたが、もう一方は賛成も反対もせず、その後まもなく値上げの準備をし始めたような場合はどうでしょうか。

裁判例には、相互に他の事業者の対価引き上げ行為を認容して、暗黙のうちに許容していた場合には合意が認められるとしたものがあります。

 

また、合意があったことをどのように立証するかも問題です。

 

裁判例には、外部的に明らかな形での合意が認められなくても、対価引き上げがなされるに至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識および意思を検討して相互間の共通認識、認容があるかどうかを判断して合意の有無を決するべきだとしているものがあります。

 

 

さて、今回の事件では、カルテルにかかわったとされるゼネコンが課徴金減免制度に基づき公取委に違反を申請したことが報じられました。

 

課徴金減免制度は平成17年の独禁法改正によって新設された制度で、リニエンシー制度とも呼ばれます。

 

早期に違反行為を公取委に申し出た者に対して、一定の条件で課徴金の減免を認めるもので、カルテル参加者がカルテルから離脱するインセンティブを高め、企業内部で独禁法を遵守するよう促す趣旨の制度です。

 

今回のようなコンプライアンス違反を放置すれば、刑事罰の対象になったり、多額の課徴金を課されるなど、企業経営を揺るがす重大な損失に繋がりかねません。

 

独禁法違反に該当しないか不安に思われた際には、なるべく早い段階で弁護士にご相談することをお勧めいたします。