2020.5.7

「同一労働同一賃金」対応 vol.2

はじめに

前回に引き続き、「同一労働同一賃金」実現に向けての手順をお話しします。

※「同一労働同一賃金」対応 vol.1はこちら

今回は、手順4から6 の「同一労働同一賃金」違反の疑いがある部分への対応方法について、お話しさせていただきたいと思います。

 

 

<手順4>待遇の違いが「不合理でない」ことの説明のための整理

事業主は、労働者から求められた場合には、正社員と非正規社員の待遇差の内容やその理由について、 説明することが義務付けられます。

待遇の違いが「不合理でない」こと、すなわち、待遇の違いが労働条件の違いに見合ったものである」と説明できるよう、整理をしておきましょう。

 

例えば、表1のとおり、住宅手当が正社員のみに支給される理由として、「正社員は転居を伴う配転が予定されているのに対し、非正規社員は転勤が予定されていないことから、正社員は非正規社員よりも住宅費用が多額となる可能性が考えられるため」と説明する等です。

 

 

 

<手順5>「法違反」が疑われる状況からの早期の脱却を目指す

⑴「不合理でない」ことの説明が難しい場合

上記「手順 4」において、待遇の違いが「不合理でない」ことの説明が難しいケースもあるかもしれません。

これについては「法違反」が疑われるため、 早期に脱却を目指す必要があります。

⑵ 「法違反」が疑われる待遇 ~諸手当~

「法違反」が疑われる代表的な待遇としては、① 通勤手当、②作業手当、③給食手当があります。

 

まず、①通勤手当は、通勤に必要な交通費の多寡は正社員も非正規社員も変わらないため、正社員のみに支給することは不合理であると考えられます。

次に、②作業手当は、正社員と非正規社員が同じ職務の内容を担っている場合、正社員のみに支給することは不合理と考えられます。

そして、③給食手当も、正社員も非正規社員も労働時間内に食事のための休憩時間があれば、食事をとることは共通であるため、正社員のみに給食手当を支給することは不合理と考えられます。

このように、職務の内容(業務の内容、責任の程度)、職務の変更の範囲に関係なく支給する手当を、正社員のみに支給するルールは不合理とみられやすくなります。

 

 

⑶ 職務の内容や変更の範囲と深く関連する待遇   ~基本給等~

職務の内容や変更の範囲と関連性の深い①基本給、②職務関連手当(役職手当、資格手当など)、 ③賞与について差がある場合は、職務の内容や変更の範囲と均衡がとれたものになっているかが問題となります。

 

まず、①基本給は、正社員と非正規社員それぞれの職務の内容(業務の内容、責任の程度)や配置の変更の範囲に見合った水準である必要がありますし、②職務関連手当(役職手当など)は、正社員と非正規社員で同じ役職についている場合には基本的に同額であることが求められます。

そして、③賞与についても、会社への貢献が同一の場合には 同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行う必要があります。

 

⑷ 「法違反」が疑われる状態を是正する方法

「法違反」が疑われる状態を是正する方法としては、まずは①現状の待遇の違いが不合理なものではないと言えるように、労働条件を改定するという方法があります。

例えば、表2のように、非正規社員も危険を伴う職務を担っているにもかかわらず、危険手当を正社員のみに支給している場合には、非正規社員には該当の危険な職務には従事させない、という内容に改定することが考えられます。

 

 

次に、②現在の労働条件に合わせて待遇を改定するという方法もあります。

この場合、正社員、非正規社員のどちらかの労働条件を見直し、他方に合わせることになりますが、法律の趣旨に照らすと、非正規社員の待遇を正社員に合わせることが望ましいと言えます。

具体的には、通勤手当を正社員のみに支給していた場合には、非正規社員にも支給するよう変更する必要があります。

 

上記②の非正規社員の待遇を正社員に合わせる方法は人件費の増加を伴いますので、現実的には難しいかもしれません。

その場合は、①の現実の待遇に合わせて労働条件を改定する方法を中心に考えることになるでしょう。

そうすると、非正規社員には「正社員並みの高度な職務を求める」のではなく、「簡易軽易業務を求める」という位置づけで考えていく必要があります。

 

 

<手順6>改善計画の策定・取組み

法律の施行が近づいていますので、優先度の高いものから順次、取り組んでいきましょう。

優先順位は、まずは通勤手当等の諸手当にかかる不合理な格差の是正(手順 5の⑵)、次に基本給、職務関連手当、 賞与等にかかる不合理な格差の是正(手順 5の⑶) です。

 

 

おわりに

以上、「同一労働同一賃金」実現に向けての手順を説明させていただきました。

具体的にどのようなケースが「同一労働同一賃金」違反になるのかについては、 これから判例も蓄積されていくと思います。

当事務所からも、随時情報を発信していきますので、皆様の会社でも、アンテナを張っていただければと思います。

 

 


<参考文献>

  • ・「事業主のみなさまへ 2020年4月1日施行(中小企業は2021年4月1日から適用)パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」厚生労働省 都道府県労働局
  • ・労政時報第3978号/19.9.13「諸手当・福利厚生に関する制度
  • ・規程見直しの実務 法令・ガイドラインに沿って非正規社員制度の見直しを図るための考え方と対応」藤原宇基、羽間弘善、平井裕人
  • ・労政時報第3981号/19.10.25「特集2 改正法対応シリーズ 第12弾 同一労働同一賃金を踏まえた人事・賃金制度の見直し手順 現状の制度を維持しながら、不合理な待遇差を是正していくためのアプローチ」澤村啓介、祖父江万里子

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年2月5日号(vol.241)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 飯平 藍子

飯平 藍子
(いいひら あいこ)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学大学院法務研究科修了
主な取扱分野は、交通事故、離婚、企業法務です。その他、相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
企業向けに「顧客トラブル回避対策セミナー」「ハラスメント研修」などの講師を務めた実績があります。

 

 

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