2022.12.23
今こそ下請法遵守を!(弁護士:角家 理佳)
下請法(正式名称「下請代金支払遅延等防止法」)は、下請取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的とするもので、独占禁止法を補完する法律です。
長期化するコロナ禍やウクライナ情勢によるエネルギーコストの上昇・原材料費の高騰が中小企業に深刻な影響を及ぼしている今、わずか12 条からなるこの法律の重要性が増しています。
下請法の適用範囲
下請法は、親事業者が下請事業者に物品の製造、修理、情報成果物(ソフトウェアなど)の作成又は役務(運送、情報処理、ビルメンテナンスなど)の提供を委託したときに適用されます。
親事業者・下請事業者は、お互いの資本金額によって決まります。
(1) 物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
(2) 情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((1)の情報成果物・役務提供委託を除く。)
なお、下請法の適用外であっても、独占禁止法の適用があり得ることには注意が必要です。
親事業者に課せられる4 つの義務
下請法は、親事業者に次の4 つの義務を定めています。
①②の違反には、罰則もあります。
① 委託後、直ちに、発注書面(給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等の事項を記載した書面)を交付する義務
② 取引経過書類を作成し、2 年間保存する義務
③ 下請代金の支払期日(給付後60 日以内)を定める義務
④ 支払いが遅延した場合は、年率14.6%の遅延利息を支払う義務
親事業者の11の禁止行為
下請法は、親事業者に次の11 の行為を禁止しています。
該当行為をすれば、たとえ下請事業者が了解していても下請法違反になります。
① 受領拒否…注文した物品等の受領を拒むこと。
② 下請代金の支払遅延…下請代金を支払期日までに支払わないこと。
③ 下請代金の減額…あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
④ 返品…受け取った物を返品すること。
⑤ 買いたたき…類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
⑥ 購入・利用強制…親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
⑦ 報復措置…下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済…有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
⑨ 割引困難な手形の交付…一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請…下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること。
⑪ 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し…費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。
勧告・公表等
公正取引委員会と中小企業庁は、親事業者と下請事業者に対して、毎年定期的な書面調査を行い、必要に応じて、親事業者に対して立入調査を実施しています。
こうした調査により違反行為が明らかになると、親事業者には、原状回復や再発防止等に関する指導・勧告・公表がなされます。
「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」と下請法
政府は昨年、中小企業に不当なしわ寄せを生じさせないために、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を発表しました。
その一環として、公正取引委員会は、下請法の関連で次の取組みをしました。
「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正
「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」「 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」が、禁止行為の買いたたき」に該当するおそれがあることを明確にしました。
買いたたき等の違反行為が疑われる親事業者に関する情報を提供できる「違反行為情報提供フォーム」の設置
公正取引委員会は、違反行為についての情報を幅広く収集できるように、下請事業者が匿名で情報提供できるフォームをHP上に設置しました。
企業の信頼維持のために
前述した近時の傾向からすれば、下請法は、今後その執行・取締りがより強化されると予想されます。
下請法は、悪意のない「うっかり違反」が多いと言われており、また、禁止行為は下請事業者の了解があっても違反となります。
しかし、いずれの場合も言い訳は通用しませんし、違反行為により企業名公表され、「下請けいじめ」と評価されるようなことになれば、企業の社会的信頼が損なわれることは必然です。
ぜひこの機会に、下請法を正しく理解し(公正取引委員会や中小企業庁のHP に詳細な解説があります)、チェックリストやマニュアルを作成するなどの対策をされるとよいでしょう。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年10月5日号(vol.273)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。