2024.1.26
フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要(弁護士:角家 理佳)
1 . フリーランスの普及と浮上した課題
近年、働き方が多様化し、フリーランスという選択肢も普及してきました。
その一方で、フリーランスの約4割が、発注事業者からの報酬不払い・支払遅延といったトラブルや、出産や介護等に関するハラスメントを経験しているという実態も明らかになっています。
その要因としては、「個人(フリーランス)」対「組織(発注事業者)」では、交渉力や情報収集力に格差があること、フリーランスは取引上弱い立場にあること等がありました。
そこで国は、フリーランスに係る①取引の適正化、②就業環境の整備を図ることを目的として「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」を制定しました。
この法律は2024年秋ごろまでの施行を予定しており、発注事業者の義務の具体的内容等の詳細は、施行までに政省令・告示などで定められることとなっています。
そこで、今回は、法律の概要を見ることとします。
2 . 法律の対象
この法律は、発注事業者(特定業務委託事業者)とフリーランス(特定受託事業者)の間の「業務委託」に係る「事業者間」取引を対象としています。
フリーランスと呼ばれる人でも、従業員を使用している人、企業と雇用契約を結んでいる人、消費者を相手に取引をしている人は、この法律の対象ではありません(図参照)。
3 . 法律の規制内容
発注事業者には、発注事業者が満たす要件に応じて次の義務が課されます。
適用関係は表のとおりです。
【取引の適正化に関する規制】
① 書面等による取引条件の明示
フリーランスに対し、書面や電磁的方法により「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」等の取引条件を明示しなければなりません。
② 報酬支払期日の設定・期日内の支払
物品等を受け取った日から60日以内の報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払わなければなりません。
③ 禁止事項
継続的業務委託(政令で定める一定期間以上行う業務委託)の場合は、フリーランスに対して、後記4の禁止行為(①~⑦)をしてはなりません。
【就業環境の整備に関する規制】
④ 募集情報の的確表示
フリーランスを募集する広告に、虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはいけません。
また、内容は、正確かつ最新のものに保たなければなりません。
⑤ 育児・介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスが育児や介護等と業務を両立できるよう配慮(例えば、検診の時間の確保、就業時間の短縮、オンライン勤務等)をしなければなりません。
⑥ ハラスメント対策に係る体制整備
ハラスメントに関する相談対応のための体制整備等の措置(例えば、ハラスメント防止研修を行う、相談担当者を決める等)を講じなければなりません。
⑦ 中途解除等の事前予告
継続的業務委託の中途解除や更新拒絶をする場合、原則として、30日前までに予告しなければなりません。
4 . 発注事業者に禁止される行為
「従業員を使用し、継続的業務委託をする発注事業者」は、フリーランスに対する次の行為が禁止されます。
① 受領拒否
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること
② 報酬の減額
フリーランスに責任がないのに、発注時に決めた報酬を発注後に減額すること(協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目・方法・金額の如何にかかわらない)
③ 返品
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること
④ 買いたたき
通常支払われる対価に比べ、著しく低い報酬を不当に定めること
⑤ 購入・利用強制
品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入、利用させること
⑥ 不当な経済上の利益の提供要請
自己のために、金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させること(例えば、協賛金の要請等)
⑦ 不当な給付内容の変更、やり直し
フリーランスに責任がないのに、発注の取消しや内容変更をしたり、受領した後にやり直しや追加作業を行わせたりする場合に、それに要する費用を発注事業者が負担しないこと
5 . 違反行為への対応
フリーランスは、発注事業者の違反行為について、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に今後設置する窓口に申告することができます。
申告を受けた行政機関は、その内容に応じて、違反事業者に対し助言・指導、報告徴収・立入検査、勧告、命令・公表等の対応を取ります。
せっかく働き方の選択肢が増えても、安心して働ける環境がなければ国民経済の健全な発展は望めません。
フリーランスを活用している企業には、この法律の遵守が期待されます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年11月5日号(vol.286)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。