2023.6.12

対応急務~残業代が増額方向で改正されました!

この記事を監修した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

どのような法改正?

労働基準法は、労働者の労働時間について、原則1日8時間・週40時間と定め、それを超える勤務(時間外労働)に対して割増賃金(いわゆる残業代)を支払うよう定めています。

「原則」としたのは、フレックスタイム制などの変形労働時間制を導入することも認められているからですが、時間外労働に対して割増賃金を支払わなければならないことに違いはありません。

割増賃金の具体的な割増率は、基本は25%になりますが、平成22年4月1日からは、大企業に限定して、月60時間を超える時間外労働に対しては割増賃金率が50%と定められました。

中小企業にとっては負担が大きいと判断され、大企業に限定しての規制となっていました。

しかしこの度、「働き方改革」の一環として、時間外労働を抑制すること等を企図して、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%とする制度が、本年(令和5年)4月1日から、大企業だけでなく、中小企業にまで拡大されることになりました。

なお、中小企業の定義は、下表のとおりです。

割増賃金の計算はどうなる?

割増賃金を計算するには、法に従って時給を計算し、そこに割増率を乗じて計算することになります。

例えば、月額35万円の給与、月の所定労働日数が21日、所定労働時間8時間とした場合、時給は、30万円÷21日÷8時間=1786円になります。

仮に、月80時間の時間外労働を行った場合、これまでは1786円×80時間×1.25=17万8600円となります。

これに対し、本年4月1日からは月60時間を超える部分の割増率が50%に引き上げられることで、1786円×60時間×1.25+1786円×20時間×1.5=18万7530円となります。

法改正前と比べて8930円の増額になります。

どのような対策が必要?

割増賃金率の変更に伴い、月60時間を超える残業代が正確に計算されるよう給与計算システムの変更が必要となります。

また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を変更して所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

代替休暇制度を導入できます!

代替休暇制度とは、労使協定を定めることで、時間外労働が月60時間を超えた場合に、月60時間を超える部分の割増賃金率の引上げ部分の代わりに、有給休暇を付与することができる制度です。

代替休暇は1日または半日単位で、時間外労働が1か月60時間を超えた当該1か月の末尾の翌日から2か月以内に与える必要があります。

代替休暇を取得するか否かの労働者の意向確認の手続き、取得日の決定方法、割増賃金の支払日等を協定で定める必要があり、就業規則にも記載する必要があります。

但し、紛らわしいのですが、代替休暇の付与が認められるのは、月60時間の時間外労働について、割増賃金率が25%から50%に引き上げられた部分になります。

そのため、上記の例で言えば、改正前の割増賃金17万8600円は支払わなければならず、増額となる8930円を支払う代わりに休暇を付与できることになります。

上記の例を利用して代替休暇を計算すると、月60時間を超える時間は20時間となりますので、20時間×25%=5時間の代替休暇を付与することで増額部分の割増賃金を支払う必要がなくなるわけです。

法改正への対応が急務です!

「働き方改革」が求められる昨今、なるべく時間外労働が生じないように職場環境を改善されている企業が多いとは思いますが、割増賃金の計算方法が変わる以上は、就業規則の改訂は必須であり、対応が急務です。

また、代替休暇の制度を導入しようと考えている企業は、以上の説明のとおり制度が分かりにくいので、労働者への正確な理解が得られるよう周知が必要になります。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年4月5日号(vol.279)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。