2022.11.7
知っておきたい広告表示規制の基礎知識(弁護士:渡辺 伸樹)
はじめに
広告・宣伝の場面では、自社の商品・サービスを消費者に選択してもらうために、ある程度の誇張がなされることは社会一般に許容されています。
例えば、広告に「激安!」「うまさ日本一!」といった内容の表現が使われていたとしても、こうした広告表現にある程度の誇張が含まれていることは一般的に認識されていますし、一般消費者の選択に不当な影響を与えることもないので、直ちに規制の対象とはなりません。
しかし、誇張の程度が、社会一般に許容される限度を超えて、一般消費者に対して誤認を与えるレベルになると、商品・サービスの選択に不当な影響を与えることになるため、規制の対象となります。
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)は、こうした一般消費者に誤認を与える表示について規制を行っています。
規制の対象となる表示
景表法では、事業者が商品・サービスを提供する際に、顧客を誘引するために利用するあらゆる表示が規制の対象になります。
広告媒体を利用したものだけでなく、口頭によるものも対象になります。(下図表1 参照)
優良誤認表示と有利誤認表示
景表法が規制する不当表示の主なものとして、『優良誤認表示』と『有利誤認表示』があります。
⑴ 優良誤認表示
優良誤認表示は、品質、規格その他の内容に関する不当表示を指します。
簡単にいうと、「良いものですよ」と訴える表示をしているにもかかわらず、実際には表示されるほど良いものではない場合です。
■優良誤認表示で実際に摘発された事例
① 焼き菓子の包装紙に、「コシヒカリ純米クッキー」「あきたこまち米使用純米クッキー」、と表示したが、実際の主原料は小麦粉であり、コシヒカリ等の米穀の粉末は極めて少量しか使用されていないものであった事例。
② 保健衛生品に関する広告として、テレビショッピング等で、「ウイルス98.4%以上除去!」「ニコチン89%以上除去!」等と表示したが、事業者に根拠となる資料の提出を求めたところ、提出された資料は合理的な根拠を示すものとは認められないものであった事例。
(2) 有利誤認表示
有利誤認表示とは、価格その他の取引条件に関する不当表示を指します。
簡単にいうと、「お得ですよ」と訴える表示をしているにもかかわらず、実際には表示されているほどお得ではない場合です。
■有利誤認表示で実際に摘発された事例
① 小売店の広告として、チラシ等で、「毎月29日は肉の日!!」「牛肉が半額!当日表示価格より」と表示したが、実際には、対象商品のパッケージに表示された値引き前の価格の多くは、通常時の販売価格ではなかった事例。
② 通信講座に関する広告として、ウェブサイト上で、「資格取得応援キャンペーン」「全講座1万円割引実施中」「期間限定2014年6月1日~ 6月30日まで」と表示したが、実際には上記期間に限らず、ほとんどの期間において正規受講料から1万円引きのキャンペーンを実施していた事例。
違反行為に対する措置
違反行為が認められた場合、国や都道府県は、その事業者に対し、一般消費者に与えた誤認の排除、表示行為の差止め、再発防止のための措置などを命じることができます(措置命令)。
措置命令が行われると、その内容が公表されますので、事業者にとって事実上のペナルティとなります。
また、違反行為をした事業者に対しては、課徴金の納付が命じられるケースもあり、不当な表示による集客で利益を得ていたとしても、それと同等かそれを超える経済的不利益が課されることになります。
なお、不当表示が成立するためには、表示を行った者の故意・過失は要件とされていません。
つまり、違反する表示行為を行った場合「知らなかった」という弁解は通りませんので、注意が必要です。
まとめ
2015年以降、全国の措置命令の件数は、下の図表2のとおり推移しています。
全国的に見れば、それほど摘発事例は多くありませんが、中には地方の事業者や中小規模の事業者が対象となった事例もありますので、楽観視はできません。
広告表示を考えるにあたっては、一般消費者の立場に立って、自社の広告表示からどのような印象を持たれるかを検討し、誤解されるような表示や過度に誇張した表示は差し控えることが重要になります。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年9月5日号(vol.272)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。