2022.10.6

パワハラ防止措置が義務化されました(弁護士:中澤 亮一)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 中澤 亮一

中澤 亮一
(なかざわ りょういち)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県南魚沼郡湯沢町
出身大学:早稲田大学法科大学院修了
国立大学法人における研究倫理委員会委員、新潟県弁護士会学校へ行こう委員会副委員長などを務めている。
主な取扱分野は、離婚、金銭問題、相続。また、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)などにも精通しています。複数の企業でハラスメント研修、相続関連セミナーの外部講師を務めた実績があります。

2022年4月より、労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)の適用対象が拡大され、大企業だけでなく中小企業においても、パワーハラスメントの防止措置を講ずることが義務化されました。

すでに対応済みの企業様も少なくないとは思いますが、今回は、このパワハラ防止法によって企業に求められる対応について確認したいと思います。

パワハラの定義

そもそもパワハラとは何を指すのでしょうか。

この点、パワハラ防止法は法律の条文として初めて、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義しました(同法30 条の2)。

つまり、①優越的な関係を背景とした言動であること②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること③労働者の就業環境が害されることのすべての要素を満たすものが、職場におけるパワハラということになります。

企業としては、どこまでの行為がパワハラに当たり、どこまでなら当たらないのか、その線引きが気になるところかと思いますが、ここで重要なのが②の要素です。

②の要素からすると、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラに該当しないということになります。

つまり、ある程度厳しい指導であっても、「業務上の適正な範囲」と認められる限りは、パワーハラスメントには当たらないといえるのです。

職場の業務を円滑に進めるためには管理職に一定の権限を与えることは当然必要であり、業務上必要な指示や注意・指導などもその一つです。 部下を注意したり叱ったりすることの全てがパワハラに当たるわけではありません。

パワハラの6 類型

パワハラの具体的行為内容として、厚生労働省は6 つの類型を提示しています。

(1)身体的な攻撃

相手を殴る、蹴る、物で叩く、物を投げつけるなどの身体に対する直接的な行為です。

パワハラにとどまらず、暴行罪や傷害罪といった犯罪が成立する可能性もあります。

(2)精神的な攻撃

パワハラとして最もイメージしやすい行為類型であり、実際に最も問題となる類型です。

人格を否定するような発言をする、同僚の目の前で叱責する、必要以上に長時間にわたって叱るなどの行為がこれに当たりますが、被害者が自死するなど深刻な結果をもたらすこともあります。

(3)人間関係からの切り離し

職場内の人間関係から意図的に切り離して、孤立させる行為類型です。

一人だけ別室で仕事をさせる、あいさつなどを無視する、会議や飲み会などの日程を故意に教えない(呼ばない)などの行為がこれに当たります。

(4)過大な要求

客観的に見て、本人の能力に見合わない業務を無理矢理に行わせるといった行為です。

質的なものと量的なものの両方がこれに当たります。

とくに、新人社員には注意が必要です。

(5)過小な要求

過大な要求とは逆に、不合理に本人の能力を大幅に下回る仕事しか与えないといった行為です。

運転手なのに草むしりだけを命じられるなど、担当職域と無関係な仕事のみを与え続けることもこれに該当します。

(6)個の侵害

いわゆるプライバシーの侵害です。

個人的な飲み会に執拗に誘う、プライベートを詮索する、自宅の草むしりなどの私用を無理矢理行わせるといった事例があります。

企業が取り組むべき具体的対策

先ほどのパワハラ防止法30条の2では、「(事業主は)当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とも規定されており、これが、事業主が講じなければならない措置の内容になります。

パワハラ防止法には罰則規定はありませんが、十分な対策を講じていなければ、パワハラを受けた従業員等から損害賠償請求を受けるリスクがあるほか、SNS を通じた炎上など様々な危険に晒されることになります。

取り組むべき具体的な対策を確認しておきましょう。

(1)事業主の方針等の明確化および周知・啓発

事業主として、職場のパワハラをなくすべきであることやパワハラを許さないことなどを、メッセージとして明確に示す必要があります。

(2)相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

まずは相談窓口を設置し、労働者に周知する必要があります。

そして、相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう体制を整える必要があります。

(3)職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応

パワハラの事実を把握したら、事実関係を迅速かつ正確に確認し、行為者に対する措置を適切に行うほか、再発防止の措置も講ずる必要があります。

被害者に対する配慮も十分に行わなければなりません。

(4)実態の把握、研修の実施

パワハラの実態を把握するため、従業員アンケートやヒアリングを実施し、定期的に研修を実施するとよいでしょう。

おわりに

パワハラ防止法の施行により、企業としてパワハラの防止措置を講ずることは法的義務となりました。

すべての企業が無視できない問題となったといえますので、まだ対策が十分でない場合は早急に対応する必要があるでしょう。

ハラスメント対策でお困りの場合は、ぜひ当事務所弁護士にご相談ください。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年8月5日号(vol.271)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。


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