契約書チェックのコツ「秘密保持契約書」について(弁護士:下山田 聖)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 下山田 聖

下山田 聖
(しもやまだ さとし)

一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。

はじめに

事業を行うにあたり、取引先と契約書を取り交わす場面は無数にあると思います。

今回は、売買や請負などのある意味「身近な」契約書とは違う「秘密保持契約書」について解説します。

「秘密保持契約書」とは

秘密保持契約書とは、取引の前提としてお互いの機密情報を開示する場合に、その情報の取扱いや漏えい時の措置等についての取り決めを内容とするものです。

売買契約、請負契約等でも、契約の一条項として秘密保持に関する条項を設けることもありますので、目にされた方も多いのではないでしょうか。

契約書のタイトルとして「秘密保持契約」と謳う場合には、共同開発やM&A をするに当たって、定型的に情報のやり取りが想定されることが多いです。

英語の「Non-Disclosure Agreement」を略して、「NDA」と呼ばれることもあります。

注意点

適用される情報の範囲「秘密保持契約」をチェックするに当たっては、その契約が適用される情報の範囲を確認する必要があります。

開示する側としては、できるだけ広い範囲の情報とするニーズがあるでしょうし、開示を受ける側としてはその逆のニーズになります。

いずれにしても、契約相手方との間で対象とする情報の認識に齟齬があるとトラブルのもとですので、この点は明確にする必要があります。

対象となる情報を具体的に特定する方法としては、情報の種類で特定したり、開示に際して「機密」と記載された情報としたりする方法が考えられます。

また、秘密保持契約を締結するということは、その後に大きな取引が想定されていることが多いでしょうから、「契約の存在自体」も秘密にするという条項を設けることもあります。

開示対象者

(1)秘密保持契約を締結した上で開示した情報は、開示された相手方において一定範囲で利用されることが想定されます。

開示する相手方が会社の場合には、会社の担当部署や担当者について取り決めをし、相手先会社内で無制限に情報が広がってしまわないよう、注意が必要です。

なお、開示する相手方が「会社」の場合には、契約主体も当然「会社」ということになります。

そのため、当該会社の「従業員」がその情報の開示を受けてよいということにはなりませんので、秘密保持契約を締結する場合には、開示を受ける側でも、社内で無制限に情報が広がってしまわないよう注意が必要です。

⑵ また、弁護士、監督省庁、裁判所等から開示の要請があった場合には、秘密保持契約の例外として開示する、という定めを置くことも多いです。

この場合、そのような要請に対応する際には、「秘密情報とならない」のか「秘密情報ではあるものの例外的に開示する」のか、どのような取り決めになっているのかも確認が必要です。

「秘密情報とならない」という定めの場合には、開示を受けた弁護士らが受領した情報は「秘密情報ではない」という扱いになってしまいますので、特別な事情がない限りは、「秘密情報ではあるものの例外的に開示する」という取り決めの方がよいでしょう。

漏えい時の措置

秘密保持契約書があるにもかかわらず当該情報が漏えいした場合には、契約違反(債務不履行)として損害賠償の問題になります。

しかし、現実問題として、「当該情報が漏えいしたことによる損害」を正確に算定するのは困難であり、損害賠償請求をする側が困難を強いられてしまうことになります。

そのため、場合によっては、漏えい時の措置として、損害賠償額を定めておくことが考えられます。

秘密保持契約終了後の取扱い

(1)秘密保持契約に契約期間が定められている場合、特に何の手当もしなければ、契約の終了によって秘密保持義務はなくなります。

そのため、契約期間終了後であっても、期間中に開示した情報を秘密として保持したい場合には、「第●条、第●条は、本契約が期間満了により終了した場合であっても、その効力が存続するものとする。」として、契約終了により当然に秘密保持義務が消滅しない内容の契約とすることもできます。

ただし、情報の内容や秘密保持義務の範囲等からして、あまりにも長期間存続することとした場合には、当該条項が公序良俗(民法90条)に違反し無効、と判断される可能性もありますので、注意が必要です。

(2)秘密保持契約にしたがって開示された情報を、利用終了時にどのように廃棄するかという点についても、契約書上に取り決めをしておいた方が安心です。

例えば、「廃棄した場合には、その旨を表明する証明書を添付する。」という形にすれば、開示された相手方も秘密情報の管理に慎重にならざるをえないでしょう。

おわりに

タイトルを「秘密保持契約書」とする契約書を締結する機会は少ないかもしれませんが、これを締結することにより、契約当事者間で重要な情報の交換ができ、今後の事業形態を発展させるにあたって大きな意味を持ってくる契約書でもあります。

開示側、開示される側と立場は様々だと思いますが、上記注意点に留意の上、契約内容を精査いただければ幸いです。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年5月5日号(vol.268)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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