契約不適合責任への改正と契約書(弁護士:古島 実)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 古島 実

古島 実
(こじま みのる)

一新総合法律事務所
理事/燕三条事務所長/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:一橋大学法学部卒業(憲法専攻)

新潟県弁護士会副会長(平成19年度)などを務める。主な取扱分野は企業法務問題(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、相続、。
保険代理店向け交通事故対応セミナーや、三条商工会議所主催の弁護士セミナー等で講師を務めた実績があります。

契約不適合責任への改正

民法は「瑕疵担保責任」という制度を定めていました。

例えば、売買契約の目的となる商品に「瑕疵」があったときに、買主が売主に対して、修理や損害賠償を求めることができるとする制度です。

そして、この制度は 2020年4月「施行」の民法の改正によって、「契約不適合責任」という制度に変更されました。

「瑕疵」から「契約不適合」へ

これまで「瑕疵」という言葉は法律の条文ばかりでなく、卸売業の商品売買契約書、製造業の製造委託契約書、建築業の建築請負契約書にも使われてきました。

「瑕疵」は一般には「きず・欠点」をいいますが、法律上は「目的物が通常有する性質や性能を有していないこと」を意味します。

しかし、「瑕疵」という言葉は一般になじみがなく難解であること、「目的物が通常有する性質や性能」があるかどうかは、結局、契約の内容から判断しなければならないこと、引き渡されたものが契約と違っていた場合それが「瑕疵」にあたるかどうかはっきりしない場合があることなどの問題がありました。

そこで、今回の民法の改正で「契約不適合責任」の制度に変更し、契約不適合について「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と契約の内容を基準として、契約不適合の判断基準を明確にしました。

そして、判断基準を明確にしたうえで、売主の責任や手続きを詳細に規定しました。

契約不適合があった場合の権利

売買の目的物に契約不適合があった場合の買主の権利は次のとおりです。

⑴ 追完請求権(改正民法第562 条)

目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しなどの方法により、改めて完全な給付を求めることができます。

⑵ 代金減額請求権(改正民法第563 条)

買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。

⑶ 損害賠償請求権(改正民法第564条、第415条)

売主の責めに帰すべき理由により給付物に契約不適合があった場合は損害賠償請求ができます。

⑷ 解除権(改正民法第564 条、同第541 条、同第542 条)

買主は、追完の催告をしたにもかかわらず、売主が追完しない場合、契約を解除することが可能です。

また、債務の全部の履行が不能であるときや、売主がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、無催告での解除も認められます。

契約書を作成する場合の注意事項

(1) 不利にならないように法律と契約の条項を確認する

契約書で行った合意は法律の規定に優先して当事者を拘束します。

そのため、法律の規定ばかりでなく、契約書の各条項を十分に確認する必要があります。

そして、契約書の各条項が取引の実態に合致するかどうか、法律の規定に照らして自らの立場が不当に不利に取り扱われていないかを確認する必要があります。

ところで、商取引に適用される法律である商法526条は、買主が目的物を受領した後、遅滞なく検査をして、契約不適合を発見したときは直ちに、検査では発見できない場合は6か月以内に、売主に通知をしなければ、買主は売主に原則として契約不適合責任を追及できないと規定します。

(買主による目的物の検査及び通知)

第五百二十六条

1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

しかし、これでは、6か月経過すると、買主が売主に対して、契約不適合責任をほとんど問うことができなくなってしまいます。

売主から、次の契約条項例のうち第Y条2項が記載されていない契約書を示された場合、法律の規定どおり6か月を経過すると契約不適合責任をほとんど問うことができません。

そこで、次のように、売主と交渉をして、契約の条項に第Y条2項の定めを追加し、契約不適合責任を問うことができるようにして、買主の立場を守ることもできます。

第X 条(検査)

1 買主は、商品受領後遅滞なく、個別契約で定める方法により、当該商品の検査を行う。

2 買主は、前項の検査の結果、契約不適合があった場合は、当該商品の受領後〇営業日以内に売主に通知する。

3 売主は、前項に基づく契約不適合の通知を受けた時は、当該商品を修理したうえで改めて第1項の検査を受けるものとする。

第Y 条(契約不適合責任)

1 商品に第X条第1項の検査では発見できない契約不適合があった場合は、当該商品の検査合格後6か月以内に買主が契約不適合を発見し、その旨を売主に通知した場合に限り、売主は履行の追完を行うものとする。

2 買主は、前項及び第X 条第3項の規定にかかわらず、受領した商品の契約不適合に基づく売主への損害賠償請求、代金減額請求及び当該個別契約の解除をすることができる。また、本契約において、商法526条は適用しない。

(2) 契約内容を十分に特定をする記載をする

また、「契約不適合」は契約の内容によって決まるので、種類、品質、数量などを、契約書において明確にしておくことも大切です。

そうでないと契約不適合かどうかの判断を巡ってトラブルになると思います。

契約書にはこれらを十分に特定する記載を行う必要があります。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年1月5日号(vol.264)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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