コロナ禍における株主総会対策(弁護士:中川 正一)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 中川 正一

中川 正一
(なかがわ まさかず)

一新総合法律事務所
理事/新発田事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:電気通信大学大学院情報工学専攻(中退)

新潟県弁護士会副会長(平成26年度)、現在は新発田市情報公開・個人情報保護審査会委員、新発田市行政不服審査委員などを歴任しています。取扱分野は、企業法務をはじめ、離婚、相続、交通事故など。その他、幅広い分野に精通しています。
特に相続・成年後見・家族信託等をテーマとしたセミナー講師を務めた実績が多数あります。

 

我が国の株主総会の多くは 6 月に予定されているところ、昨年は緊急事態宣言明け間もない時期のため準備が間に合わないなどの事態が発生しましたが、今年も緊急事態宣言が明けたばかり(4月上旬執筆時点)で既にコロナ感染者が増加傾向にありますので、昨年と状況は変わらない様子です。

そのため、昨年の状況を踏まえて対策を整理します。

定時株主総会の開催時期

6 月に拘らず、定時株主総会の開催をコロナ禍を理由に合理的な期間内に延期することは、法務省の見解でも可能とされています。

 

もともと開催時期が 6 月に集中する理由は、議決権行使できる株主を定める基準日を 3 月末日と定款で定められていることが多いところ、法が基準日株主の権利行使は当該基準日から 3か月以内のものに限定(会社法124条2項)していることに理由があります。

 

実際に開催時期を 7 月以降に延期する場合には、この議決権の基準日を変更する必要があり、そのとき剰余金配当の基準日と齟齬が生ずるおそれがあったり、取締役の選解任が滞ることに対する懸念があります。

「継続会」の活用

 

そこで、定時株主総会を例年通りに開催し、取締役の選解任と配当支払決議を行った後に継続会に続行する決議(会社法 317 条)を行い、決算・監査手続が終了したところで株主に計算書類・監査報告等を提供し、継続会を開いて計算書類を確定する方法があります。

 

この方法では、前記のとおり、総会当時に議決権ある株主と、継続会当時に議決権ある株主に齟齬がある場合などの問題が指摘されますが、コロナ禍における決算・監査手続の遅れを理由に金融庁、法務省、経産省は許容する見解を述べています。

 

ただし、昨年の状況としては、多くの会社は、定時総会の延期も継続会も行わず、例年通りのスケジュールで定時総会を開催したようです。

株主総会において「三密」を避けるアプローチ

⑴入場制限

「三密」を避けるために株主総会の入場者制限を設けることについて、株主の権利行使の機会確保の観点からみると問題があることは否定できないのですが、経産省、法務省は「可能」としています(株主総会運営に係る Q&A)。

 

学説上も公衆衛生による制約などを理由として、入場制限を適法と解するものもあります。

 

⑵ バーチャル株主総会

現行法では「バーチャル」オンリーの株主総会は認められないと解されていますが、通常の株主総会と並列的にインターネット配信をすることは可能と考えられます。

これにより、前記の入場者制限の許容性を高めることも期待されます。

 

なお、このような「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は、コロナ禍前に経産省で検討され、2020 年 2 月に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公表されており、昨年はこれを導入する会社も存在したようです。

 

⑶ コロナ禍におけるバーチャル株主総会の実現

前記の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」では、モデルケースとして、動議提出機能を希望する株主へは会場出席を案内することを前提としていますが、これはコロナ禍前の検討内容であり、コロナ禍では会場の入場制限をすることが重大な課題となります。

 

そこで、コロナ禍においてハイブリッド型バーチャル株主総会を検討するにあたっては、インターネット出席を実現するために必須となる機能はオンラインでの「議決権行使」「質問」の機能の他に、「動議」の提出機能も加えて検討されるべきと考えられます。

 

バーチャル開催における議事録作成

⑴ 開催の記載

株主総会をバーチャルで開催した場合には、リアルの開催場所とそれ以外の場所との間で、情報伝達の即時性と双方向性が確保されている必要があるといわれています。

株主の出席については、開催場所以外から出席した役員・株主の出席の方法を議事録に記載することとされています(会社法施行規則72条3項1号)、必ずしも当該役員・株主の所在場所を記載することは求められていません。

 

⑵ 押印

会社法上、株主総会議事録には出席役員等に押印義務は課されていない(定款に定めがある場合は別)ものの、議事録の原本性を明らかにし、改ざんを防止するという観点から、少なくとも議事録の作成と職務を行った取締役が押印をするのが望ましいと考えられます。

 

株主総会議事録を電子文書で作成した場合、会社法上の押印義務は課されていないものの、法務省所定電子署名がなされたものを添付する必要があります(商業登記規則102条2項・5項)

 

おわり

以上のとおり、コロナ禍における株主総会の開催には「ハイブリット型バーチャル株主総会」が「三密」を避けるにあたり、有用であり、かつ、既に実践をしている会社があることを考えますと、現実的な対策でもあります。

 

ただし、インターネット接続によるトラブルは十分に想定されますので、事前の技術的リハーサルの必要性も加味し計画されてみてはいかがでしょうか。

 

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《参考文献》

・「新型コロナウイルス感染症とコーポレート・ガバナンス」小出篤(『法学教室』No.486)
・「ベンダー選定の視点から本番の流れまでを詳解!『出席型』オンライン株主総会実施の手引き」尾崎太(『ビジネス法務』3/2021)
・「バーチャル開催における役員登記・議事録作成の実務」鈴木龍介、佐久原綾子(『ビジネス法務』3/2021)

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年5月5日号(vol.256)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

 

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