職場における熱中症 企業の責任は?(弁護士:五十嵐亮)

 

連日危険な暑さが続いています。

 

埼玉県熊谷市では、国内で史上最高の41.1℃を観測したとの報道もありました。

 

今回は、業務中に従業員が熱中症にかかった場合の企業の責任についてみていきたいと思います。

 

熱中症は労災?

労働基準法施行規則第35条別表1の2に、労災が対象とする疾病が定められていますが、その中に熱中症も規定されています。

厚生労働省の通達によれば、「体温調節機能が阻害されるような温度の高い場所」での業務中に熱中症を発症すると労災認定されることになります。

 

厚生労働省が公表している過去10年の統計データによると、熱中症による労災の発生件数は、平成22年に656人と最多となり、その後も400~500人で推移しています。

その内、死亡の事例は、平成22年の47人が最も多く、その後も10人~30人で推移しています。

熱中症はどんな職種に多い?

厚生労働省が公表している過去5年の統計データによると、建設業と製造業が多く、全体の5割弱がこれらの業種で発生しているとされています。

死亡の事例は、建設業が圧倒的に多く、農業、警備業で多く発生しています。

熱中症の症状は?

熱中症は、医学的には、熱射病(日射病)、熱けいれん、熱疲労等に分類されるとされ、厚生労働省の通達でもこの分類を採用しています。

 

熱射病・日射病の症状としては、めまい、吐き気・嘔吐、頭痛、耳鳴り、下痢等が伴うとされています。

 

熱けいれんは、四肢や腹部の筋肉の痛みを伴うけいれんを起こします。

大量の発汗後に塩分を補給しないことで起こるといわれています。

 

熱疲労は、初期に激しい口の渇き、尿の減少がみられ、その後、めまい、四肢の感覚異常、歩行困難のほか、失神することもあります。

大量の発汗による心臓への負担増大によって起こるといわれています。

熱中症予防のためにとるべき対策は?

業務中の熱中症予防は、企業の責務とされています。

 

厚生労働省は、平成30年5月から9月までを実施機関とする「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」と題し、職場における熱中症予防対策を企業に呼び掛けています。

 

具体的な予防対策としては、事業場への周知・啓発、セミナーの実施、暑さ指数(WBGT値)の測定と把握、作業計画の策定、休憩場所の確保、水分・塩分の摂取等が挙げられています。

多岐にわたりますので、詳細は、同キャンペーンをご参照ください。

企業の賠償責任は?

炎天下の下で作業していた従業員が死亡して裁判になるケースでは、死亡の原因が熱中症なのか否かが争点となることがあります。

死亡の原因が熱中症と認定され、企業の安全配慮義務違反が認定されてしまうと、企業は、賠償責任を負うことになります。

 

平成28年1月21日に出された大阪高等裁判所の判決によれば、造園業者に勤務する34歳、年収約210万円の男性が、真夏の炎天下(午後4時30分で39℃)で剪定作業していたところ、熱中症により死亡した事案につき、慰謝料2500万円、逸失利益1680万円等を認定し、労働者側の持病や、労災給付の控除などを考慮した結果、会社には、約3600万円の賠償責任があるとしています。