2019.9.3
労務担当者のための自然災害対応(弁護士:五十嵐亮)
本年7月に九州地方を襲った豪雨は記憶に新しいところですが、近年、大規模な自然災害が発生し、事業運営に支障を来たしたケースは少なくありません。
大規模な自然災害が発生した場合には、従業員の労務管理に関し各種の対応に追われることになります。
今回は、事前災害時の対応の中でも、特に相談の多い「休業と賃金の取り扱い」について、想定される2つのケースごとにポイントを解説したいと思います。
ケース1
豪雨により自宅が浸水し、被災した従業員から、賃金の非常時払の請求(既に働いている分に対する賃金の前払請求)があったが、どのように対応すればよいか。
労働基準法25条は、労働者が出産、疾病、災害等の非常時の費用に充てるために賃金を請求する場合には、支払期日前であっても、既に行われた労働に対する賃金を支払わなければならない旨定めています。
厚生労働省が発出した「平成30年7月豪雨による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」によれば、ここにいう「災害」には、洪水等の自然災害の場合も含まれると解されています(Q5-1)。
ケース1のように、自宅が浸水するという被害を受けた従業員から賃金の前払の請求があった場合には、使用者は、既往の労働の対価に相当する賃金(給与締切日からの日割り計算)を支払う必要があります。
ケース2
大型台風による停電によって工場の設備を稼働せることができないため、事業所を一時休業することになったが、従業員に対し休業手当を支払う必要はあるか。
労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由により休業する場合」における休業手当の支払い義務を定めています。
ここにいう「不可抗力」とは、
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
の2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
この点について、前記のQ&Aでは、次のように解説されています。
豪雨による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます
とすれば、ケース2でも、使用者の責に帰すべき事由はないとして法的には休業手当の支払い義務はないといえそうです。
もっとも、就業規則において、使用者の責に帰すべき事由がなくとも休業手当を支払うと規定されている場合には、支払い義務が発生しますので、注意が必要です。
また、実際の現場の事情に応じて、任意に支払うということもあり得ると思われます。
いずれにしても、自然災害が発生した場合には、イレギュラーな対応が求められますので、臨機応変に対応できるよう、事前の準備が重要といえそうです。