2018.9.20

女子体操選手をめぐるパワハラ問題と企業に求められるパワハラ対策(弁護士:五十嵐亮)

加熱するパワハラ報道と「職場のパワーハラスメント防止対策のための検討会報告書」

 

 

スポーツ界のパワハラに関する報道が後を絶ちません。レスリングに始まり、アメフト、ボクシング、体操、重量上げと次々とパワハラに関する報道が過熱しています。

 

ちょうど時を同じくして、2018年3月に、厚生労働省は、「職場のパワーハラスメント防止対策のための検討会報告書」(以下「報告書」)を公表しました。

 

報告書によれば、パワハラは、「企業にとっても、職場のパワーハラスメントは、職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながるものである」とされています。

このように、パワハラの問題は、単なる労働問題ではなく、企業経営の問題でもあります。

 

今回は、報告書及び報告書の添付資料の内容を見ていきたいと思います。

パワハラの発生状況

厚生労働省は、全国各都道府県の労基署内に「総合労働相談コーナー」を設置しています。

この総合労働相談コーナーに持ち込まれる相談内容には、パワハラの他、解雇・退職問題、労働条件の問題等があります。

 

パワハラに関する相談件数は、平成18年度以降毎年増加を続け、平成28年度には7万件を超えています。

平成23年度までは、解雇に関する相談が全体のトップですが、平成24年度にパワハラに関する相談がトップになり、平成24年度以降は、トップの座をキープしています。

 

厚生労働省が実施したアンケートによれば、従業員向け相談窓口に寄せられる相談の多いテーマは、パワハラとなっており、上位には、メンタルヘルスやセクハラといったテーマもあがっています。

また、過去3年間にパワハラに該当すると判断された事例があったと回答した企業は、全体の36.3%に上っています。

パワハラの予防解決に向けた取り組み状況

厚生労働省が実施したアンケートによれば、パワハラの予防解決に向けた取り組みを実施している企業は、全体の52.2%でした。取り組みを検討中の企業も含めると74.3%に上ります。

企業規模別にみると従業員1000人以上の会社では、88.4%の企業が、パワハラ防止のための取り組みを実施していると回答しています。

 

取り組みを実施している企業のうち、「相談窓口を設置している」と回答した企業は、全体の82.9%となっており、最も実施企業が多い結果となっています。

次いで「管理職を対象にパワハラについての講演や研修会を実施した」と回答した企業が61.3%と2番目に多い結果となっています。

 

他方で、「管理職を対象にパワハラについての講演や研修会」については、74.2%の企業が「効果を実感できた」と回答しており、最も多い結果となっています。

パワハラ対策を実施する意義

厚生労働省の報告書によれば、職場においてパワハラ予防・解決に取り組むことで、労働者がパワハラを受けたと感じることやパワハラにより心身への影響があったと感じることが相対的に少なくなるとされています。

 

パワハラ予防・解決に向けた取り組みを実施している企業では、

「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」

「職場のコミュニケーションが活性化する」

「休職者・離職者の減少」

「メンタルヘルス不調者の減少」

といった効果がみられたということも報告されています。

求められる対応

以上を踏まえて、厚生労働省の報告書では、概ね以下のような対応をとることが求められています。

 

①企業としての方針の明確化(トップメッセージ)

②パワハラの対処方針について就業規則・ガイドライン等の規定の整備・周知

③相談窓口の設置、相談体制の整備

④パワハラについて職場内での研修の実施

 

冒頭でも述べましたように、パワハラの問題は、被害者・加害者だけの問題ではなく、職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失を与えかねないものです。

 

このことは反対に、パワハラ防止のための取り組みを積極的に実施すれば、生産性向上、意欲の向上、離職防止、企業イメージの向上にもつながることになります。

 

このような意味から、パワハラ問題は、もはや単なる「労働問題」ではなく、「経営問題」と位置づける必要があると考えられます。