2020.11.12

子どもが学校で怪我をした場合、学校の責任は?(監修弁護士:朝妻太郎)

 

第1 体育祭(運動会)や、マラソン大会、球技大会、部活動中の事故と学校の責任とは?

 

体育祭(運動会)や、マラソン大会、球技大会は学校生活における一大イベントとして位置づけられていることが多いのではないでしょうか。

 

これらのイベントは多くの生徒からすれば楽しいイベントではありますが、主催する学校側からすれば生徒にけがをさせるのではないか等、不安なことも多いと思われます。

 

本記事では、万が一事故が発生してしまった場合の責任について触れた上、事故後に行うべき対応について簡単にご説明させていただきたいと思います。

 

第2 事故発生前の準備・対応が一番大切

運動会等の学校行事中に生じた事故について考えられる学校側の民事上の責任としては、不法行為責任、債務不履行責任(国家賠償法上の責任)が考えられます。

これらの責任を追及するには、要件(条件)を満たす必要があります。

例えば、不法行為責任の要件としては、①権利又は法律上保護される利益の存在、②①が侵害されたこと、③②についての故意又は過失、④損害の発生及び額、⑤②と④との因果関係が必要とされます。

 

 

運動会等の学校行事中に発生した事故との関係でいえば、要件に該当する具体的な事実の多くは、事故直後よりも前の時点で生じていると思われます。

例えば生徒への指導・説明不足、施設や備品の安全性の欠如、監督者の配置不足などといった事情です。

 

そのため、賠償責任の観点(そもそも事故を起こさない観点)からすると、運動会等の競技実施にあたっては、競技実施前に適切な指導、安全管理を行うことが重要です。

 

具体的には、事前に生徒に安全に関する知識や技能を身に着けさせる安全教育、生徒の健康状態や心身の疲労等の状況、使用する施設備品の安全管理、事故を防止するための適切な管理体制を敷くといったことが重要になると思われます。

 

第3 事故後の対応の目的とは?

上記のとおり、賠償責任という意味では、通常は事故直後よりも前に生じていた事情が重視されると思われます。

事故後の対応は、①事故の再発防止、②事故に向き合いたい生徒や保護者の希望に応えるということが主たる目的になると思います。

 

第4 事故後の学校側の執るべき対応とは?

万が一事故が発生してしまった場合、事故後といっても、事故直後と事故からある程度時間が経過した段階では必要な対応は異なると思われます。

学校側としては、その時期に応じた適切な対応が必要となります。

 

事故後の詳しい対応方法については、各学校にあると思われる危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)をご参照いただくか、文部科学省が平成28年3月に取りまとめた『学校事故対応に関する指針』等を参考にしていただければと思います。

この記事では、簡単に触れさせていただきます。

 

<参考>文部科学省:『学校事故対応に関する指針』

 

第5 事故直後の対応とは?

まず、事故直後は、被害生徒に対する応急措置が最優先となります。

また、被害生徒の保護者への連絡の第1報をできるだけ早く正確に行うことが必要といわれています。

そして、現場に居合わせた生徒に対する心のケアも大切です。

強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなり、事故からしばらく経ってから様々な症状が現れることもあるため、適切かつ迅速な対応が必要となります。

そして、公立、私立、国立により報告先は異なりますが、基本的には、学校の設置者に対して速やかに事故を報告し、必要な人員の派遣や助言等の支援を要請する必要が生じると思われます。

 

第6 事故直後の以後の対応について

 

事故直後の以後は、調査を行い、事実関係を整理し、事故に至る過程や原因の分析を行う必要があります。

調査を基に被害生徒等の保護者への説明が必要となってきます。

 

また、被害生徒の保護者に対応する際には、窓口を一本化し、説明に矛盾がでないよう正確な事実を伝えるということが極めて重要であると思われます。

これは、上記の『学校事故対応に関する指針』にも記載があることですが、私も事件を通じて感じたことです。

 

同じ事実を伝えるにしても、例えば校長と教頭から別々に事実の説明があると、保護者の言葉のとらえ方によっては全く異なる解釈をされ、全然違うことを言われたと感じることもあります。

のちのトラブル防止の観点からもこの点は強く意識する必要があると思われます。

 

第7 最後に

これまで、学校事故において、学校側に責任がある前提で記事を記載しましたが、学校側としては、事故が生じた場合、その全てについて必ず賠償責任を負わなければならないというわけではありません。

 

注意義務の程度は、行う競技の種類や、生徒の属性等によって異なるため、どの程度の対応が必要かというのを一律に指摘することは難しいです。

もっとも、予見可能な事態について、危険発生防止措置をとれるよう適切な管理体制や人員を配置したり、競技を行う前に生徒に十分に説明したり、練習を行わせたりすることは、事故を未然に防ぐという意味だけではなく、賠償責任との関係でも非常に重要であるといえます。

 

 

近年は気候変動等により屋外での運動が危険なほど気温が高くなり、夏期の体育や行事の実施には新たな対応が必要になることも想定されます。

また医学の進歩や学校事故の裁判例の蓄積により必要となる危険発生防止措置は変化していくと思われます。

ですので、生徒の安全を確保するためにも、管理体制は常時見直していくことが望ましいと思われます。

 

近年、スクールロイヤーと呼ばれる弁護士会と教育委員会の連携のもと、学校に弁護士が派遣される制度をスタートしている自治体もあります。

当該制度も含め、管理体制の見直し時、また学校事故発生時には弁護士への相談も対応の一つとしてご検討していただければと思います。

 

 

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この記事を監修した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。