2021.8.4

消費者保護のための特定商取引法改正がありました。(弁護士:朝妻 太郎)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士会連合会弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

1 はじめに

令和3年6月に、特定商取引法の一部改正がなされました。

この改正のうち、売買契約に基づかないで送付された商品に係る改正規定(特定商取引法第59条及び第59条の2)は、令和3年7月6日に施行されました。

他方、契約書面等の交付に代えて、購入者等の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができるものとすることに関する改正部分は、公布の日である令和3年6月16日から起算して2年以内に、その他の改正内容については1年以内に施行されることとなりました。

 

どちらかというと、一般消費者向けの内容になりますが、送り付け商法に関する改正と、契約書類に関する改正についてご紹介したいと思います。

 

2 送り付け商法に関する改正

⑴ 送り付け商法とは

 

注文していない商品を、勝手に送り付け、その人が断らなければ買ったものとみなして、代金を一方的に請求する商法を送り付け商法とかネガティブ・オプションといいます。

送付される商品は生鮮食品、健康食品から財布、マスクまで多種多様であり、全ての年齢層の消費者がターゲットになりうるものです。

 

民法の原則からすると、売買契約が成立していない中で勝手に送り付けられた商品であっても、他人(事業者)の物ですから、送り付けられた人が勝手に処分すると、他人の所有権を侵害することになります。

そのため相手が取りに来るまで保管しなければならないことになります。

 

これでは不都合でしたので、従前の特定商取引法は、注文していない商品(=売買契約が締結されていないにもかかわらず一方的に送り付けられてきた商品)について保管期間を14日と定め、その期間が経過すれば処分して良いことになっていました(特定商取引法旧第59条)。

 

⑵ 今回の改正について

しかし、14日間であっても保管の負担は相当なものです。

例えばカニなどの生鮮食品が送られて来た際には14日間保管することはとても負担です。

その前に処分してしまったり、送り返そうと思って業者に連絡をしたら電話口で強引に話をされ代金を支払う約束をしてしまったり、という問題が発生していました。

 

そこで、今回の法改正では、売買契約が締結されることなく、一方的に送り付けられた商品を直ちに処分して構わないことが定められました。

これにより、送り付けられた人が保管の負担を追うこともなく、安心して処分することができるようになりました。

 

⑶売買契約が成立していないことが前提

なお、この点で注意が必要なことは、「売買契約が成立していない」場合に限られるということです。

強引かどうかは別論として、訪問販売等で売買契約が成立しており、商品が送られてきた場合には、この条項は該当しません。

その場合には、従前のようにクーリングオフ制度を利用して売買契約を解除することになります。

また、店舗等で売買契約が締結されている場合には、そもそも特定商取引法の適用がありませんので、クーリングオフの対象とならないことはご注意下さい。

(また、当然ですが、一般消費者を保護するための法律ですので、事業者が購入者の場合には適用されません。)

 

2 電磁的方法による通知等の拡大

訪問販売等、特定商取引法が規定する取引を行うにあたり、事業者は、代金の支払い時期やクーリングオフ制度の告知など、所定の事項を契約書面に記載して交付することが必要でした(これらの事項の記載に不備がある場合には、クーリングオフ期間が進行せず、所定の期間が経過した後もクーリングオフできる余地があります。)。

 

この契約書面の交付について、改正法では、購入者等の承諾がある場合には、書面での交付ではなく、電磁的記録による方法(電子メールの送付等)ができることになりました。

他方、購入者側がクーリングオフを行う場合に、これまでは内容証明郵便の送付等、文書により行っていましたが、これも事業者側の承諾がある場合には、電子的記録による方法が可能となりました。

 

これらの改正は、事業者及び購入者等の便宜が考慮されています。

もっとも、一消費者の立場でクーリングオフ制度を利用する際に、相手事業者への不信がある、若しくは電子メールの送付に自信が無い(メール送受信の事実について争いが生じかねないような場合)には、従前どおり、内容証明郵便を送付する場面も残るでしょう。

 

3 事業者としての視点

⑴ 送り付け商法だと言い張られるケース

上記のとおり、今回の改正は、購入者視点に立つと、消費者保護を一段進めた改正として評価できると思われます。

 

他方、事業者の視点で考えるといかがでしょうか。

おそらく、本記事をご覧いただいている事業者の皆さんは、送り付け商法など悪徳商法の類いを行わない健全な方々がほとんどだと推察します(悪徳業者だったら、弁護士のコラムなど見ませんよね)。

そのため、多くの事業者の皆さんには、あまり関係の無い改正なのかもしれません。

 

しかし、書式・記録の不備から、今回の改正が代金回収に支障を生じさせることが考えられます。

 

例えば、店舗において売買の合意が成立しているものの、事業者が購入者に良かれと思って商品を自宅に送付したところ、購入者(若しくはその家族が)、「そんな物購入していない」「送り付け商法だ」などと言い始め、代金の支払いを拒絶した上で、商品を勝手に処分してしまったらどうでしょうか。

 

この点、売買の合意が店舗で成立していることからすると店舗販売にあたりますので、特定商取引法の適用がないはずです。

しかし、店舗で販売した際に、販売した証拠を何も残していない(顔見知りだからと伝票も作成していなかった。)等という場合にはどうでしょう。

購入者側が送り付け商法だと言い張り、この法改正を利用することも十分考えられます。

 

このような場合に備え、事業者側としては、店舗販売を行ったという証をきちんと作成しておくことが必要となります。

また、訪問販売のケースでも、訪問時に売買契約が成立したことを証する証を作成しておくことが肝要です。

訪問販売ですからクーリングオフされる可能性は残りますが、少なくとも商品を即時処分される危険は回避できます。

 

⑵事業者の皆さんは自己防衛を!

空想のような話ですが、実際に誠実な商売をしているにもかかわらず、購入者側が特定商取引法などの規定を盾に、支払いに応じないというようなケースが少なからず存在します。

結論としては、特定商取引法など消費者保護に関する法令のことをきちんと理解せず、漫然と商売をしていた事業者側に落ち度があるといわざるを得ないのですが、事業者側としては腑に落ちないでしょう。

 

そのような状況に陥らないために、日ごろから自社の事業内容に関する法令改正等の情報は積極的に収集することが必要です。

 

 

 

 本記事は2021年8月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
 記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。
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