従業員コンプライアンス教育<第2回>(弁護士:薄田 真司)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 薄田 真司

薄田 真司
(うすだ まさし)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県胎内市 
出身大学:神戸大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件、倒産対応、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか個人の方の債務整理、損害賠償請求、建物明け渡し請求など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、数多くの企業でハラスメント研修の講師を務めた実績があります。また、社会保険労務士を対象とした勉強会講師を担当し、労務問題判例解説には定評があります。

【事例】

Aは飲食店を営む会社Cにパートタイム従業員として勤務している。

Aは、上司である店長Bに業務上のミスについて叱責を受け、その腹いせに、SNSを利用して次の投稿をした。

<投稿内容>

「バイトなう。8月の真夏で暑いので涼んでみた。」 この投稿には、飲食店舗内に設置してある業務用冷蔵庫内にAが入り、Aが冷蔵庫の扉を開けて手を挙げて何かをアピールしている様子が写った写真データが添付されていた。

「バイトテロ」という言葉が流行った時期がありました。

平成25年8月の報道では、アルバイト従業員による不適切なツイッター投稿によりステーキ店が閉店したことが話題になりました。

その従業員は、冷蔵庫に入り込んで撮った写真を「バイトなう」などとコメント付きでツイートしていたことです。

会社は、上記投稿がなされた翌日に謝罪。

同従業員を解雇し、損害賠償請求も検討している旨を表明しました。

事例の法的問題を整理しましょう。

A は、会社Cの業務を妨害したことを理由として、(威力又は偽計)業務妨害罪(刑法233条又は234条)に問われる可能性があります。

Aのこのような投稿によって、会社Cに非難の電話等が殺到し、通常業務に支障をきたすおそれがあるからです。

Aは捜査の対象となりますので、捜査機関・裁判所が判断すれば、留置施設に身体が拘束される可能性もあります(逮捕及び勾留という処分がなされます)。

業務妨害罪が成立する場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。

また、会社Cの業務を妨害したことを理由に、会社Cから損害賠償請求をされる可能性があります(民法709条:不法行為による損害賠償責任)。

Aの上記投稿で会社の信用が失墜し、会社が取引先を失うことで被る損害が莫大な金額となることもあるのです。

加えて、Aは会社Cから、就業規則に基づいて、解雇されたり、懲戒処分の最も重い処分として懲戒解雇処分を課される可能性もあります。

一般に、懲戒解雇となれば、再就職が困難を極めることとなります。

Aは「ツイッターに十数文字と写真データを投稿しただけなのに…」と弁解するのかもしれませんが、その安易な考えが取返しのつかない事態を招きかねないことを従業員のみなさんに理解していただくことが必要です。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年12月5日号(vol.263)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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