公益通報者保護法の改正について(弁護士:山田真也)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 山田 真也

山田 真也
(やまだ しんや)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
国立大学法人において倫理審査委員会委員(2021年~)を務める。
主な取扱分野は、離婚、相続、金銭問題等。そのほか民事、刑事問わずあらゆる分野に精通し、個人のお客様、法人のお客様を問わず、質の高い法的サービスを提供するように心掛けています。

 

令和2年6月8日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(以下「改正法」といいます。)が参議院において全会一致で可決され、成立しました。
改正法は、今後、2年以内に施行される予定です。(消費者庁HP「改正法Q&A」においては、令和4年頃を予定と記載されています。)

 

そもそも公益通報者保護法とは?

公益通報者保護法は、労働者が会社内の不正や違法行為を上司や監督官庁、その他マスコミなどに通報(以下「公益通報」といいます。)した場合に、通報した労働者が通報を理由に会社等から不利益(例えば、解雇や、降格、減給など)を受けることのないようにすることを目的として制定された法律であり、平成 18 年より施行されています。

公益通報者保護法では、通報したことを理由に、通報者に対して解雇等の不利益な取り扱いをすることを禁止することなどにより、公益通報を行った労働者(以下「公益通報者」といいます。)の保護を図っています。

なぜ改正?

平成18年に公益通報者保護法が施行されましたが、施行後も近年に至るまで、内部通報制度は必ずしも十分に機能せず、社会問題となるような不祥事が後を絶たない状況でした。

このような状況下において、従前の公益通報者保護法(以下「旧法」といいます。)の内容を是正する必要性が議論され、今回、公益通報者保護法の改正がなされるに至りました。

どこが変わった?

① 事業者に対する通報対応体制の整備の義務付け

旧法では、事業者に対する通報対応体制の整備を義務付ける規定は設けられていませんでした。
しかし、改正法では、事業者に対し、公益通報対応業務に従事する公益通報対応業務従事者を定めることを義務付けるとともに、公益通報者の保護を図り、公益通報に応じ、適切に対応するための体制の整備、その他必要な措置を取ることが義務付けられました。(ただし、従業員数が 300 人以下の事業者においては、努力義務にとどめられています。)

 

② 行政措置の導入

改正法では、上記①の実効性を確保すべく、行政機関は事業者に対し、①について、報告を求め、又は、助言、指導若しくは勧告ができるものと規定されました。

また、事業者が行政機関からの勧告に従わない場合には、勧告に従わない旨を公表することができると規定されました。

 

③公益通報対応業務従事者の義務

改正法では、公益通報対応業務従事者に対して、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け、同守秘義務違反に対する刑事罰(30万円以下の罰金)を導入しました。

 

④行政機関への通報条件の緩和

旧法では、行政機関への通報について「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」との要件が求められていました。

 

しかし、改正法では、通報者が自身の氏名等を記載した書面を提出する場合には、上記要件を求めず、「通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料」することで足りることとされました。

⑤報道機関への通報条件の緩和

旧法では、報道機関への通報について、「個人の生命・身体に対する危害が発生する又は発生する急迫した危険があると信じるに足りる相当の理由」が存在することが要件とされていました。

 

しかし、改正法では、上記要件に加え、財産に対する損害(回復困難又は重大なもの)に関する通報についても、保護される通報の対象とされました。

また、内部通報をした場合、通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合の通報についても、新たに保護の対象に加えられました。

 

⑥保護の対象となる公益通報者の拡大

旧法では、保護の対象となる者は、現役の労働者のみでした。

 

しかし、改正法では、現役の労働者に加え、「退職者」(ただし、退職後 1 年以内の者に限る。)や「役員」(取締役、執行役、監査役、理事、監事等。ただし、役員については、通報の前に、役員自身において、調査是正の取組を前置したことが条件とされている。)も保護の対象に加えられることになりました。

 

⑦保護の対象となる通報の拡大

旧法では、保護を受ける通報の対象は、違反者に対し刑事罰が課せられる法律違反を内容とする通報に限定されていました。

 

しかし、改正法では、刑事罰のみならず、違反者に対し行政罰(過料)が課せられる法律違反を内容とする通報(ただし、改正法別表に記載された法律の違反を内容とする通報に限られる。)も、保護の対象に含められることとなり、保護の対象となる通報の範囲が拡大されました。

 

⑧保護の内容の拡大

旧法では、公益通報者の保護としては、公益通報を行ったことを理由とする解雇の無効、降格、減給その他不利益な取り扱いの禁止が規定されていました。

 

しかし、改正法では、これに加えて、公益通報を行ったことにより企業が損害を被ったことを理由として、企業が公益通報者に対して、損害賠償請求を行うことも禁止されることになりました。

また、公益通報を行ったことにより解任された役員は、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとされました。

 


◇公益通報者保護法 改正内容
① 事業者に対する通報対応体制の整備の義務付け(改正法 11 条)
② 行政措置の導入(改正法 15 条、16 条)
③ 公益通報対応業務従事者の義務(改正法 12 条、21 条)
④ 行政機関への通報条件の緩和(改正法 3 条 2 号)
⑤ 報道機関への通報条件の緩和(改正法 3 条 3 号)
⑥ 保護の対象となる公益通報者の拡大(改正法 2 条 1 項等)
⑦ 保護の対象となる通報の拡大(改正法 2 条 3 項)
⑧ 保護の内容の拡大(改正法 6 条、7 条)

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年11月5日号(vol.250)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。