商品持ち帰りによる懲戒解雇の有効性と 懲戒処分掲示の不法行為該当性 ~横浜地裁令和元年 10 月10日判決~(弁護士:五十嵐亮)

 

事案の概要

当事者

原告であるXは、Y社が運営するスーパーマーケットに配属され、精肉事業部において精肉加工・販売業に従事していた者である。

被告であるY社は、ディスカウントストアやスーパーマーケットの運営等を業とする株式会社である。

 

懲戒解雇に至った経緯

平成30年6月21日、Xの上司が、防犯カメラ映像を確認したところ、Xが、レジで精算していない時価合計3,000円相当の精肉商品6点(以下「本件精肉商品」という)を抱えて帰宅したことが確認された(以下「本件行為」という)。

上司がXに対し、本件精肉商品を未精算のまま持ち帰った疑いがある旨を告げたところ、Xは、本件行為を認め、謝罪し、持ち帰った商品の価格相当額を精算した。

もっとも、Xは、この際、本件精肉商品は弟に送るためのものであり、後で支払いをしようと思っていたが、うっかりそのままになっていたと弁解した。

Y社は、Xに対し、自宅待機を指示し、その間、本件行為について警察による捜査が実施され、Xは警察からの取調べを受けたが、警察は、説諭結了として捜査を終了した。

平成30年6月25日、Y社において懲戒委員会が開催され、就業規則67条等に基づき、Xを平成30年6月21日付け懲戒解雇処分とした(以下「本件懲戒解雇処分」という)。

 

 

Y社の買い物ルール

Y社においては、従業員が店内で買い物をする際には、原則退勤後に一般客としての来店購買を基本とすること、購入後物品を職場内に持ち込むことを禁止すること、就業中及び休憩中の買い物、買い置きを禁止すること等を定めていた。

 

懲戒解雇処分の社内掲示

Y社は、平成30年7月3日から同月17日まで、「この度、正社員による当社勤務店での窃盗事案が起きました。当該社員は店内の商品(肉)数点を調理室に持ち込み、味付けしたものを、レジを通さずに家に持ち帰りました。本事案につきまして、計画性が高く、情状酌量の余地も認められないことから、当該者を懲戒解雇処分に致しましたことを通知します。本事案は刑事事件になりますので、当社は当該者に対して、弁護士に依頼して、刑事告訴の手続きをとります。」などと記載した書面1枚を運営する全店舗の従業員通路等に掲示した(以下「本件掲示」という)。

 

本件の争点

本件の争点は、①本件懲戒解雇処分は有効か及び②本件掲示が名誉毀損(不法行為)に該当するかという点である。

 

裁判所の判断

争点①について

裁判所は、以下の理由を述べた上で、本件行為について、故意に窃盗行為に及んだと認めるに足りず、故意の犯罪行為の成立を前提とした就業規則67条等には該当しないとして、懲戒解雇は、違法・無効であると判断した。

 

  • 本件行為については警察による捜査が実施されているが、Xに対する取調べは一度のみであり、説諭結了で捜査は終了していることから、本件行為が窃盗罪を構成するとの公的判断はなされていない
  • 本件行為は、本件精肉商品を未精算のまま持ち出した1回の行為であり、本件行為以前に同様の行為を繰り返したような事情は認められない
  • Xは、他の従業員もいる中で人目をはばかることもなく本件精肉商品を加工・梱包し、他の従業員に私的に送る予定である旨説明するなどしており、故意に窃盗行為に及んだものと考えるには大胆に過ぎる
  • Y社における買い物ルールが、社内で周知徹底されていたかどうかについては疑問が残り、Xが買い物ルールの存在を認識していたと認めることはできない

 

争点②について

裁判所が、本件行為について故意に窃盗罪に及んだと認めることはできないと判断したことは前記のとおりである。

その上で、裁判所は、本件掲示を全体としてみると、Xが故意に窃盗行為を行ったとの事実を摘示するものであり、本件掲示の内容が真実であるとは認めることはできない等と判断し、結論として、本件掲示は名誉棄損(不法行為)に該当すると判断し、Y社に対し慰謝料等77万円の支払いを命じた。

 

本件のポイント

「精算するつもりだったのにうっかり忘れてしまった」という場合には、故意がないとして窃盗罪は成立しません。

本件では、窃盗の故意があるかどうかが、懲戒解雇処分をするに当たり重要なポイントとなりました。

本件では、この点の事実認定に際し慎重さを欠いてしまったために、懲戒解雇処分が無効とされてしまうどころか、懲戒の掲示についても名誉毀損と判断されてしまいました。

懲戒解雇処分を行う前提としての事実認定は、慎重に行う必要がありますので、遠慮なく弁護士にご相談ください。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年10月5日号(vol.248)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

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この記事を執筆した弁護士

弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所
弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所理事・長岡事務所所属。 2009年弁護士登録。 事故賠償チームに所属。交通事故に関するセミナー講師実績多数。 依頼者の方々に対しては、懇切丁寧なコミュニケーションを行い、よりよい解決に導けるよう心がけております。

 

 

 

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