2025.2.25

飲食店における非混雑時間帯の労働時間該当性~東京地方裁判所令和3年3月4日判決(労働判例1314号99頁)~

この記事を執筆した弁護士
弁護士 薄田 真司

薄田 真司
(うすだ まさし)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県胎内市 
出身大学:神戸大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件、倒産対応、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか個人の方の債務整理、損害賠償請求、建物明け渡し請求など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、数多くの企業でハラスメント研修の講師を務めた実績があります。また、社会保険労務士を対象とした勉強会講師を担当し、労務問題判例解説には定評があります。

事案の概要

当事者

Y社は、飲食店等の各種店舗の経営等を行う株式会社である。

Y社は、平成25年12月ころ高田馬場店を開店し、平成29年4月ころ荻窪店を開店した。


Xは、平成25年10月1日から平成30年10月5日まで、Y社との間で労働契約を締結し、高田馬場店及び荻窪店等においてY社に対し労務を提供していた。

労働条件通知書の記載等

Y社は、Xとの間で、平成29年1月ころに概ね下記の内容の労働条件通知書を作成した。

●契約期間 : 期間の定めなし
●就業の場所 : 当社店舗内
●従事すべき業務の内容 : 店舗内スタッフ(調理、
 ホール)
●始業、就業の時刻、休憩時間、就業時転換、所定時間外労働の有無に関する事項
 ① 始業・終業の時刻等
 1か月単位の変形労働時間制・交替制として、当月の勤務時間は、前月末までに勤務表により指定する。
 ※詳細は、就業規則29条
 ② 休憩時間(原則120分とするが、勤務表により指定する。)
 ※ただし、業務の都合上、休憩時間を変更する場合がある。
●賃金  
 ① 基本給 : 月額(31万4663円)
 ② 通勤手当 : 実費(略)
 ③ 定額残業手当 : 月額(10万1869円/45時間の残業手当(深夜割増分を含む)相当の対価とする)

Y社店舗における休憩時間等の状況

Y社の各店舗において、ランチタイムの営業時間は14時まで、ディナータイムの営業時間は17時からとされていた。

14時直前に来店した客に対しては、食事が終わるまで接客を続けており、その後片づけを行うなどしており、ランチタイムの客が完全にいなくなるのは、おおむね14時15分ころから14時30分ころであった。

また、Y社の各店舗においては、17時からのディナー営業に備え、16時20分ころには、鉄板の火入れを行うことが業務として定められていた。

さらに、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間に、月に1回程度、全正社員を集めたミーティングが行われることもあった。

Xは、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間帯に、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、不足食材の買い出し、予約の受付、営業時間の問合せ及び他社とのやり取り等の電話対応、シフト表の作成、業者との打ち合わせ等の業務を行っていた。

特に、出勤した日は毎日、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、電話対応を行っていた。

食事をとる際は店舗のバックヤードに置かれている電話のすぐ横で食事しており、待機しているような状況であった。

同時間帯は、アルバイトは退勤となり、勤務するアルバイトがいないため、正社員が対応していたが、荻窪店で全社員ミーティングがある際は、高田馬場店ではアルバイトが電話対応等の業務を行っていた。

Y社の反論

Xは、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の14時から17時までのうち2時間半は休憩をとることができたはずである。

訴訟の内容

Xは、Y社に対し、平成28年10月分から平成30年9月分までの未払割増賃金合計1999万9769円及び付加金等を請求した。

本件の争点

店舗の非混雑時間帯の労働時間該当性のみを取り上げる。

裁判所の判断

次の理由からXの請求を認容した。


裁判所は、一般論として、労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かに
より客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと判示した。


次に、本件においては、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の14時から17時までにおいても、Xが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間はXらがY社の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当する旨を判断した。


なお、Y社は、14時から17時までのうち2時間半は休憩を取得することができたはずであることを指摘するが、裁判所は、この時間帯に残っているランチ客への対応、ランチの片づけ、ディナーの仕込み、仕入れの配達、電話への対応、ディナー前の火入れ等の業務が発生すること、全社員のミーティングが行われることをY社代表者自身が認めており、この時間帯に社員が業務命令の指揮下にない状態となるようなんらかの対応をを行っていたといった事情も見当たらないことから、Y社の反論を退けた。


また、裁判所は、Y社の労働時間管理の態様やXの不利益の程度等を考慮し、Y社に付加金の支払を命じた。

本件のポイント

飲食店におけるランチ営業とディナー営業との間のように、店舗の営業が一時的に休止する時間帯がありますが、その時間帯に従業員が後片付けや仕込み等の業務に従事している場合には労働時間に該当する可能性があります。

これに対し、「店舗営業が休止する時間帯に休憩を取得することができた。」と企業側が主張しても、反論が退けられることが多いと思われます。

企業側としては、休憩の時間帯には、従業員を業務に従事させない(後片付けや仕込み等の労働時間は休憩とは別に設ける、留守番電話の設定をする等の対策が必要)、外出を自由とする等、業務命令の指揮下にない状態とする対応を積極的に講じる必要があると思われます。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年12月5日号(vol.299)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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