2026.1.19

職場での盗撮行為に関する会社の対応が安全配慮義務違反であるとされた事例~鳥取地裁令和7年1月21日判決(労働判例1333号45頁)~

事案の概要

当事者

原告(X)は、Z社が運営するガソリンスタンド(本件スタンド)に勤務する者(女性)である。

被告(Y)は、同じく本件スタンドに勤務するXの同僚(男性)である。

被告(Z社)は、ガソリンスタンド等の事業を営む株式会社である。

Yによる無断撮影行為

X及びYは、令和2年8月頃から本件スタンドで勤務するようになった。


Yは、Xに対して好意を抱き、令和4年7月頃から同年8月頃まで6日間にわたり、本件スタンド内において、シャッター音が出ない設定にした自己のスマートフォンをXに向けて構え、帽子、マスク、長袖、長ズボンを着用して勤務するXの姿をXに無断で近距離で撮影した(本件撮影行為)。


Xが不審に思い、本件スタンドの防犯カメラ映像を確認したところ、本件撮影行為を確認した。


なお、Xは、本件撮影行為について警察に相談したが、裸や下着姿ではないため、刑事事件として取り扱うことはできないとのことであった。

Xの休職とZ社の対応

Xは、Yの行動に気持ち悪さを感じ、令和4年9月13日、通院したところ、心身症と診断され、同年9月15日以降休職となった。


Z社は、本件撮影行為を確認したにもかかわらず、Yが退職するという事態にならないようにするため、Yに対する事情聴取を行わなかった。


Z社は、令和4年10月ころからXとYが同じ職場で働くことがないように配置換えについて検討したが、調整がつかず、結局配置換えの実施を保留した。


Xは、Z社がYに対して配置換えや懲戒処分等をすることもなく、事態が進展しないことから、令和5年以降、労働局、弁護士等に相談した。


令和5年3月22日、Yは、警察から本件撮影行為について事情聴取を受けることになり、本件撮影行為を認めた(Yはこの事情聴取に先立ち、撮影したXの画像を削除していた)。


YはXに対し、「ご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」などというメッセージを送信した。


令和5年4月頃、Xからの要望を受け、Z 社は、Yに対し、初めて事情聴取を実施したが、Yは本件撮影行為を行っていないなどとして、虚偽の説明をした。

Xによる請求内容

Xは、Y及びZ社に対し、不法行為及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求として、連帯して約376万円の支払いを求めて提訴したものである。

本件の争点

本件の争点は、①本件撮影行為は不法行為に該当するか、② Z 社に安全配慮義務違反があったかという点である。

裁判所の判断

争点①について

裁判所は、本件撮影行為について、Xは、Z社に勤務する一般人であって、勤務中に同僚から無断で撮影されることなど、想定も許容もしていないのであって、確認できるだけで6日間にわたって、Xを近距離で撮影しているものであって、Xが帽子、マスク、長袖、長ズボンを着用していたことを踏まえても、著しく不相当であるとして、不法行為に該当すると判断した。

争点②について

裁判所は、一般論として、Z社は、遅くとも令和4年9月末頃の時点で、本件撮影行為があったことを認識し、Xの被害の訴えが虚偽や勘違いではなく、Xに深刻な精神的苦痛が生じている可能性が極めて高い状況を認識したのであるから、速やかに事実確認を行い、配置換えを行ってXがYに接触しないで済む態勢を整えるなど、Xに対する適切な配慮をしていく義務(安全配慮義務)があったというべきであると判断した。


その上で、本件では、以下の事情を指摘して、Z社に安全配慮義務違反があると判断した。

  • Xが休職した後もXやYに対する事情聴取を実施していない
  • Xに対する特段の配慮ある行動をとっていない
  • Z社は、服を着た姿を撮影されたもので盗撮事件とまではいえないとか、Yが退職しないように慎重に対応しようとしたなど主張しているが、Xが被った被害を適切に評価しておらず、被害者と加害者の優先順位を見誤った不適切なものと言わざるを得ない

結論

裁判所は、Yの不法行為によって被った損害( 治療費、休業損害、慰謝料等)は、合計69 万1199円であると認定し、YとZ社が連帯して支払うよう命じた。


Z社の安全配慮義務違反によって生じた慰謝料の額は、40万円であると認定し、Z社が支払うよう命じた。

本件のポイント

本件は、ガソリンスタンドにおいて、勤務時間中に男性従業員が女性従業員を無断で撮影した行為について、不法行為として損害賠償請求が認められた事案です。


また、Z社が、Xが本件撮影行為により精神不調となり休職したことを認識した後も事情聴取や配置転換等の措置を全くとらなかったことについて、安全配慮義務違反と認定し、本件撮影為による不法行為とは別途慰謝料を認めた点が特徴的です。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年11月5日号(vol.309)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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