2026.4.21

残業代請求と振替休日が問題となった事例~東京地裁令和6年9月17日判決(労働判例1340号80頁)~

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、スポーツ施設(パーソナルジム等)の運営を目的とする株式会社である。


原告(X)は、平成24年10月24日、Y社と雇用契約を締結し、パーソナルジムにおいてトレーナーとして勤務していた者である。

Xの労働条件

Y社におけるXの労働条件は以下のとおりである。

ア 賃金
 ①令和2年3月から令和3年12月まで
  基本給:月40万円、固定残業手当:月5万円
 ②令和4年1月から同年3月まで
  基本給:月39万円、固定残業手当:月5万円
 ③同年4月以降
  基本給:月50万円
イ 所定労働時間
 業務内容とシフトに準ずる
ウ 所定休日
 シフトに準ずる

Xの業務内容

Xは、Yが運営するパーソナルジム(本件ジム)において、パーソナルトレーナーとして就労していた。

本件ジムのオープンは、午前9時であり、午前8時45分までに出勤することを求められていた。

もっとも、顧客の都合に合わせて、9時のオープン前に顧客が来店しトレーニング指導を行うこともあった。


また、Xは、Y社の休日である日曜日に出勤することになっていたが、Y社は、休日の振替をしてい
るとして、日曜日の出勤を休日労働として扱っていなかった( 休日労働手当が支払われていなかった)。

Xによる請求内容

Xは、Y社に対し、未払の時間外労働手当として、約650万円の支払い等を求めて提訴した。

本件の争点

本件の争点は、①始業前に時間外労働をしていたと認められるか、②休日の振替が認められるか(休日労働したと認められるか)という点である。


なお、本件では、固定残業手当の適否については争点となっておらず、固定残業手当を超えた部分について請求されたものである。

裁判所の判断

争点①について

裁判所は、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まると判断した。


本件では、以下の事実を認定した上で、午前8時45分より前の時刻についてもトレーニング指導
を行っていた時間については、労働時間に当たると判断した。

● 顧客の都合に合わせて午前8時45分よりも前の時刻に予約をした顧客に対応することもあった
● 予約スケジュールは、全件、予約表に記載されており、Y社代表者は、午前8時45分よりも前に予約が入っていたことを把握していた
● Y社代表者も、午前8時45分よりも前の顧客に対してトレーニング指導を行うことがあった

争点②について

裁判所は、休日の振替が認められるためには、労働者に対し、あらかじめ振替休日の日を指定し、特定の休日を労働日とする旨を通知することを要すると解されると判断した。


本件では、以下の事実を認定した上で、休日の振替は認められないと判断した。

● Y社のシフト表の原告の欄には「公休」と記載されているのみであった(振替休日として指定された旨の記載がない)
● 「公休」の記載が振替休日に当たることを示す他の証拠もない
● シフト表に、どの労働日の振替休日であるのかを示す記載がない
● 労働した休日や振替休日の日がXに適切に通知されていたのか判然としない

結論

裁判所は、Y社に対し、①630万2730円の支払い(元本及び退職日までの確定遅延損害金)、②609万4989円(元本)に対する令和4年9月11日(退職日の翌日)から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の支払い(元本に対する賃金の支払い確保に関する法律所定の遅延損害金)、③609万4989円の支払い(労働基準法114条に基づく付加金)を命じた。

本件のポイント

本件では、まず、午前8 時4 5 分よりも前のトレーニング指導の時間について、労働時間に当たるかという点が問題になりました。

この点については、Y社も午前8時45分より前の予約を認めており、Y社代表者自身も午前8時45分より前の時間帯でのトレーニング指導を行っていたということからすれば、裁判所の判断は妥当といえるでしょう。

仮に、Y社が、午前8時45分よりも前の時間帯での予約を禁止していた等の事情があれば、反対の結論になっていたかもしれません。


次に、Y社の振替休日の運用について問題となりました。

適法に振替休日を行い休日労働手当が発生しないためには、①就業規則の定めがあること、②振替日を事前に特定すること、③事前に労働者に通知すること、④同一週内で振り替えることが必要となります。


本件では、②、③の要件を満たしていないと判断されたものと考えられます。

振替休日については、せっかく制度を備えていたとしても運用を誤ると振替休日と認められない場合がありますので注意が必要です。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年2月5日号(vol.312)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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