SNSへの投稿と懲戒~どこまでやったら懲戒処分を受けるのか?~( 弁護士:飯平藍子)

1 使用者が従業員に対して行う懲戒処分

使用者は、労働者が企業秩序に違反する行為をした場合の制裁として、懲戒処分を行うことができます。

多くの企業では、懲戒処分の種類として、懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、減給、戒告、訓告などを設けています。

 

懲戒処分は、企業秩序を守るためのものなので、基本的には、業務上の行為が対象となります。

例えば、無断欠勤や遅刻、セクハラ等のハラスメント行為、横領等の不正行為、業務命令違反などです。

 

2 業務外の行為も、懲戒処分の対象となる?

業務外の行為は本来、使用者が介入できないプライベートな領域であり、原則として、懲戒処分の対象とすることはできません。

しかし、業務外の行為であっても、それが企業の社会的評価の棄損をもたらす場合には、企業秩序の維持に影響するため、懲戒の対象となり得ます。

例えば、業務外での犯罪行為や社内不倫があり、企業内の秩序や社会的評価に悪影響を与えた場合には、懲戒処分の対象になることがあります。

 

3 SNSへの投稿と懲戒処分

  • (1)SNSへの投稿が懲戒処分の対象となり得るか

近年、スマートフォンの普及に伴い、LINE、Facebook、TwitterなどのSNSの利用が急拡大しています。

最近では、身の回りの出来事や自分の考え、感想などを日常的にSNSに投稿している人も多いと思います。

SNSの投稿は世界中に発信され、一般の人の投稿であっても大きな反響を呼んだり、時には激しい批判を浴びる(いわゆる「炎上」する)こともあります。

 

労働者が個人のアカウントを使用して行うSNSへの投稿は、原則として業務外の行為であり、懲戒処分の対象にはならないようにも思えますが、実際のところ、どうなのでしょうか。

 

  • (2)業務に関連する投稿をした場合は、懲戒処分の対象となる可能性がある

労働者が個人のアカウントを使用して行ったSNSへの投稿であっても、その内容が業務に関連するものであった場合には、懲戒処分の対象となる可能性があります。

 

まず、労働者がSNS上で顧客の個人情報や名誉を棄損する内容を投稿した場合には、懲戒処分の対象となり得ます。

具体的には、労働者が顧客について、「●●さんはうちのお店に通っていて、●●に住んでいる」「●●さんは態度が悪く、面倒な客だ」と投稿するなどです。

この場合、労働者自身のみならず使用者も、顧客に対しプライバシー侵害や名誉棄損を理由に損害賠償の支払義務を負う可能性がありますし、使用者に対する信用も低下します。

 

次に、労働者がSNS上で機密情報を漏洩した場合も、懲戒処分の対象となり得ます。

例えば、「本日、●●社を訪問した」等の内密の取引情報を漏洩したり、「うちの会社では、●●の方法で製品を作っている」等、社外秘のノウハウを漏洩した場合などです。

これらの場合にも、使用者に損害をもたらすとともに、それ自体が使用者の信用低下にもつながります。

 

また、使用者の信用、名誉を棄損する場合も、懲戒処分の対象となり得ます。

例えば、使用者を「ひどい会社」「ブラック企業」と誹謗・中傷する場合などです。

一時期、アルバイト従業員が飲食店やコンビニエンスストアで不衛生行為(冷蔵庫内に入る等)をする動画が拡散し、問題となったことがありましたが、あのような行為も、使用者の信用、名誉を棄損するものとして、懲戒処分の対象になり得ると考えられます。

 

  • (3)業務に関連しない投稿の場合は、懲戒処分の対象とはなりにくい

業務に関連しない投稿の場合は、企業内の秩序や社会的評価に悪影響を与える可能性は高くなく、懲戒処分の対象とはなりにくいでしょう。

 

ただし、業務に関連しなくても、SNS上で違法行為や破廉恥な行為等、不適切な言動がみられる場合には、そのような労働者を雇用している使用者の信頼も低下します。

使用者の信用低下の影響が深刻な場合には、懲戒処分の対象となる可能性も否定できません。

 

4 SNSとの付き合い方

安易に仕事や職場に関する投稿をすると、勤務先に大きな損害をもたらし、自分自身も懲戒処分を受ける可能性があります。

「自分の本名や勤務先を明らかにしていないから、大丈夫だ」と思っていても、プロフィール欄の記載や過去の投稿から、思わぬ形で特定されてしまうこともあります。

 

懲戒処分との関係に限ったことではありませんが、SNSへの投稿は、それを投稿した後のことも考えた、慎重な行動が必要です。

一旦SNSに投稿し、それが拡散した場合、もはやそれを取消すことは事実上不可能です。

各個人には、投稿する前に、不適切な内容がないかをよく見直すことが求められます。

 

また、労働者を雇用する使用者の側も、労働者がSNS上で問題を起こしたときに懲戒処分を行うだけではなく、普段からSNSの利用方法について労働者を教育し、トラブルを防止する必要があります。

実際、SNS利用に対する企業の基本方針を定めた社内規則やガイドラインを制定する企業も多くなってきています。

 

規則やガイドラインを作成する際には、①企業(使用者)に関する発言はしないこと、②個人情報や企業(使用者)の機密情報を漏洩させないこと、③投稿する前に、不適切な内容がないかをよく見直し、投稿した内容に責任を持つこと等を盛り込むとよいでしょう。

そして、社内報や研修会等を通じて、その内容をしっかりと労働者に周知することも大切です。

 

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 飯平 藍子

飯平 藍子
(いいひら あいこ)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学大学院法務研究科修了
主な取扱分野は、交通事故、離婚、企業法務です。その他、相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
企業向けに「顧客トラブル回避対策セミナー」「ハラスメント研修」などの講師を務めた実績があります。