2020.11.5
インフルエンザに感染した社員への対応(弁護士:下山田聖)
毎年、秋から冬にかけてはインフルエンザが流行する季節です。
今年は、新型コロナウイルスの流行に伴い、図らずしてマスク着用や手の消毒等が意識的に実施されていることもあり、インフルエンザは例年と比べて流行しない可能性もありますが、労務管理の観点からは、インフルエンザに罹患した従業員に対してはどのような対応を取ればよいのでしょうか。
1 法規制
労働法上は、従業員がインフルエンザに罹患した場合に会社が取るべき対応は規定されていません。
この点、学校の児童生徒や職員に対するものとしては、学校保健安全法及びこれに基づく学校保健安全施行規則が定められており、インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)の場合には、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児の場合は3日)」は出席停止とする、と定められています。
そのため、会社の場合でも、就業規則等において、上と同様の定めが置かれていることも多いでしょう。
この点、就業規則上どのような定めになっているのかについては、経営者の側で確認をしておく必要があります。
併せて、従業員がインフルエンザに罹患している場合に、それをどのように会社に伝える定めになっているのか、罹患の事実について医師の診断書まで求めるのかという点も確認が必要です。
2 欠勤時の取扱い
就業規則において、インフルエンザに罹患したことを出勤停止事由としている場合には、従業員本人からの要望に応じて、有給休暇を取得することとするケースが多いのではないでしょうか。
インフルエンザ罹患に限った話ではありませんが、従業員の側から有給休暇の申請があった場合には、会社の側は有給を取得させなければなりません。
当該従業員について有給休暇が残っていない場合には、欠勤扱いとせざるを得ませんが、この場合に、休業手当を支給する必要があるかどうかは注意が必要です。
「休業手当」とは、「使用者の責めに帰すべき事由」により労働者が休業する場合に、当該休業期間中に平均賃金の60パーセント以上の手当を支払わなければならないとする労働基準法26条の規定に基づいて、使用者側が支払義務を負う手当です。
従業員のインフルエンザ罹患による欠勤が「使用者の責めに帰すべき事由」によるのかどうかは、インフルエンザの種類によって変わってきます。
労働安全衛生法68条は、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令に定めるものにかかった労働者については、厚生労働省例で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。」と規定しています。
そのため、事業者が、従業員が「厚生労働省令」に定める疾病にかかった場合には、法律上就業させることができないため、この場合の欠勤は、「使用者の責めに帰すべき事由」によるものではなく、休業手当を支払う必要はありません。
新型インフルエンザ及び特定鳥インフルエンザに罹患した場合には、この「厚生労働省令」に定める疾病に該当しますので、これによる欠勤の場合には、休業手当を支払う必要はありません。
一方、それ以外の季節性のインフルエンザに罹患した場合には、法律上出勤停止を命じる根拠がないことから、これによる欠勤は「使用者の責めに帰すべき事由」による欠勤であるとして、上で見た休業手当を支給する必要が出てきます。
3 働きたいと言われたら?
季節性インフルエンザの場合、2で見たように出勤停止を命じる根拠がないことから、法律上は欠勤を強制することはできません。
しかしながら、使用者には、職場の衛生環境に配慮すべき義務が課されているものであり、漫然とインフルエンザ罹患者の出勤を認めた結果、職場全体で流行してしまったとなれば、衛生環境配慮義務の違反を問われてしまう可能性も出てきます。
このような場合には、季節性インフルエンザに限らず、その他感染性の疾病に罹患した場合には、会社判断で出勤を禁止できる場合があることを就業規則上明確に定めておくことも、職場内での流行防止の一助となります。
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