2021.4.12

同一労働同一賃金の判断基準について (弁護士:朝妻太郎)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士会連合会弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

 

令和元年、令和2年と、正規社員と非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者)との待遇格差に関し、複数の最高裁判所の判決が言い渡されましたが、同一労働同一賃金のあり方について、整理をしてみたいと思います。

最高裁判決の位置付け

令和 2 年 10 月までに出された同一労働同一賃金に関する最高裁判決は、いずれも平成 30 年の働き方改革に関連する一連の法改正が施行される前の事件であり、当時の労働契約法 20 条の解釈の問題として判断されていますが、現在は、旧労働契約法 20 条から移行した短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「有期雇用労働法」と言います)第 8 条の解釈が問題となります。

 

短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(不合理な待遇の禁止)
第8条

 事業主は、その雇用する短期間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

※下線は筆者が付記

 

上記有期雇用労働法第 8 条と一体となる形で、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン」が公表されています。

※参考:厚生労働省HP「同一労働同一賃金ガイドライン」

 

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインは、原則的な考え方を示すとともに、明らかに問題となる具体例と、明らかに問題とならない具体例を示したに過ぎません。そのため、一見して違法か否か判断できないようなケースについて、上記最高裁判決を参考に、個別具体的に考える必要があります。

 

具体的な検討(各種手当について)

それでは、上記最高裁判決の趣旨を考慮して、具体的な待遇の差異について検討するとどうなるでしょうか。

まず各種諸手当については、当該手当が支給される趣旨から考えて、

 

①業務の内容

②当該業務に伴う責任の程度

③配置の変更の範囲

④その他の事情から差異が合理的に説明できるかどうか

 

で検討することとなります(なお、①~④は、上記雇用労働者法第 8 条の下線部分と対応しています)。

 

ここでお気付きかと思いますが、単に「有期労働者」といっても、企業・就業先ごとに、業務内容や責任の程度が大きく異なります。そのため、例えば、ある企業では家族手当について差をつけても不合理でないと判断される一方、別の企業では差をつけると不合理と判断されることがあり得るのです。

 

 

具体的に検討してみましょう。

 

運送業を営む会社において、トラック運転手である正規社員に支給されている通勤手当(従業員が通勤にかかる費用を企業側が支給するもの)、無事故手当(業務中の交通事故の発生抑止を図るため、規定の期間、無事故で運転したドライバーに一定額が支給されるもの)が、非正規社員であるトラック運転手に支給されないケースを考えてみます。

 

正規・非正規問わず、業務のために通勤を要することに違いはありません。

また、正規社員と非正規社員とで転勤(配置転換)の違いがあったとしても、いずれかの営業所に通勤しなければならないことに変わりがありません。

 

また、トラック運転手である以上、正規でも非正規でも業務中の「無事故」で安全運転を心がけるべきことにも違いがありません。

そのため、このようなケースでは、通勤手当や無事故手当について正規・非正規で差異を設けることは不合理である、すなわち非正規社員に支給しないという判断は違法となると考えられます(ハマキョウレックス事件を参考にしています)。

 

このように、各種手当については、その手当が設けられている制度趣旨に遡り、上記 4 つのポイントから検討されることが必要となります。

 

具体的な検討(賞与や退職金について)

上記最高裁判決では、賞与や退職金に関する差異については不合理な差異に当たらず適法と判断しています。

 

 

上記の①~④の要素で検討することに変わりはありませんが、各種諸手当と異なり、賞与や退職金について最高裁は、当該支給の趣旨や手当の性質のみならず、「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る」ことを目的としている点にも着目しています。

すなわち、正規社員の定着を図るために、正規社員に対して(のみ)賞与や退職金制度を整備している、と評価するものです(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件を参照)。

そのため、この考え方からすると、賞与や退職金について、正規社員と非正規社員とで異なる取扱をすることも、不合理な差異に当たらないと考えられるとも思われます。

 

もっとも、非正社員について、職務の内容や雇用が想定される期間について「実質的に正社員と異ならない」ような運用実態があるとすると、非正規社員であることをもって賞与・退職金等を一律不支給とすることは、不合理で違法とされる可能性もありますので(メトロコマース事件補足意見を参照)、賞与・退職金につい て、非正規社員への不支給が一律是認されると判断するのではなく、ケースごとに検討を行うことが適切と考えられます。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年2月5日号(vol.253)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

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