2020.9.2
民法改正のポイント ~保証編②~(弁護士:中澤亮一)
前回のおさらい
(1)民法改正のポイント「保証」編、第二回です。
今回は、少し発展的な内容を、事例を交えて考えてみたいと思います。
(2)前回、「事業のために負担した貸金等債務についての保証契約」については、契約締結前1か月以内に作成した公正証書で保証意思を表示しなければ、保証契約は無効となるとご説明をしました(改正後民法465条の6)。
では、下の事例ではどうでしょうか。
公正証書を作成していない事例ですが、保証契約は無効といえるでしょうか。
事例
設問
Aは、弟Bに、母が一人で住む自宅(事業用ではない)のリフォーム費用として現金300万円を銀行から借り入れたいと話し、その債務の保証人となってほしいと頼んだ。
Bは、母のためならやむを得ないと考えて、それに応じた。
ところが、Aはその後気が変わって、その300万円を自分が経営する会社の運転資金に費消したうえ、返済も一切しなかったため、保証人であるBのもとに銀行から請求が来た。
Bは、保証人になる際に公正証書を作成していなかったことから、銀行からの請求を拒否したいと考えている。
弟は請求を拒むことができるか。
解説
(1)この事例では、Aは、当初は母親の介護費用のために借り入れを行っているものの、後になって気が変わり、自分の事業資金に使ってしまっています。
このような場合は、「事業のために負担した貸金等債務」といえるのでしょうか。
(2)この点について、当然のことながら裁判例などはまだありませんが、立案担当者の解説(商事法務「一問一答民法(債権関係)改正」149頁)によると、「事業のために負担した貸金等債務」、すなわち借主が自らの事業に用いるために負担した貸金等債務であるか否かは、借主がその貸金等債務を負担した時点で定まることになるとされています(同書149頁)。
つまり、借入れをした段階で「事業のため」でないのであれば、その後借主がその金銭を事業のために費消したとしても、そのことによって「事業のために負担した」債務に変わってしまうということはないと考えられるということです。
(3)今回の事例では、Aは借り入れ当初、自宅リフォーム費用として借入れをしていますので、「事業のため」にあたらず、保証契約に際して公正証書の作成までは不要ということになります。
したがって、Bは銀行の請求を拒むことができないと考えられます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年6月5日号(vol.245)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。