ベネッセ最高裁判決についての簡単な説明(弁護士大橋良二)

弁護士の大橋良二です。

 

先月の23日、最高裁で、ベネッセコーポレーションの個人情報流出事件の上告審判決がありました。

 

 

この事件は、2014年に業務委託先の社員がベネッセのデータベースから大量の個人情報を不正に持ち出して売却したものです。

ベネッセは対象者にお詫びとして500円分の金券を送り、これにより多額の損失が発生したとされています。

 

今回の裁判は、顧客の男性が、自身の個人情報が漏洩したとして、ベネッセに対し10万円の損害賠償を求めていたものです。

一審と二審では男性側が敗訴し、最高裁の判断が注目されていました。

 

最高裁はどのような判断を下したのでしょうか。

 

 

最高裁は、「本件漏えいによって、上告人が迷惑行為を受けているとか、財産的な損害を被ったなど、不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がされていないから、上告人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない」と判断した原審大阪高裁判決を破棄しました。

そのうえで、ベネッセ側の過失の有無ならびに情報が流出した顧客の精神的損害の有無およびその程度について審理を尽くさなかったとして、差戻しをしました。

 

情報漏洩の重大事件について、最高裁判所の判断が下された事件です。

判決文だけではなかなかわかりにくいものだと思いますので、以下、誤解を恐れずにくだいて説明してみたいと思います。

 

まず、高裁は、「不安感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がされていない」、つまり、単なる不安感を超えて、その情報を悪用されて財産的な損害を被ったとか、情報を利用されて具体的に(たとえば「情報漏洩の結果、いたずら電話がやまなかった」とか、「多数回にわたり教材の訪問販売が来た」みたいな。)事実が主張立証されていないということで、損害賠償を認めませんでした。

 

要するに、高裁は、「(1)単なる不安感」だけではだめで、「(2)不安感を超える損害」が必要だという判断と考えられます。

 

 

これに対し、最高裁は、「情報漏洩があった時点でプライバシー侵害があるのだから、その精神的損害の有無及びその程度について、審理すべきであって、具体的な損害の主張立証がないだけで棄却すべきではない」と判断しました。

 

要するに、(1)情報が漏れたプライバシーという侵害によっても、不安感等の損害が発生しているので、損害賠償が成立しうる。

だから、その損害(慰謝料等)の有無や程度を審理してくださいね、ということです。

 

まとめると、(1)単なる不安感、(2)具体的な損害のうち、(1)だけでは損害賠償が認められないとしたのが高裁で、これに対し、最高裁は、そうではなく、(2)がなくても、(1)だけでもプライバシー侵害があるのだから、その損害の有無とか程度(損害があるのかないのか、いくらくらいの賠償額が適切なのか)について、審理してくださいね、ということで高裁に審理を差し戻した、ということです。

(もちろん、最高裁判決については、様々な評価の仕方があるでしょうから、上記は、一つの解釈として読んでいただけたら幸いです。)

 

これまでも、基本情報の漏洩だけで損害賠償請求は認められてきたことからすると、実務的には、予想通りの判決といってよいのではないでしょうか。