テレワーク導入と実施上の注意点(監修弁護士:朝妻太郎)

はじめに

働き方改革と東京オリンピックの混雑緩和のために注目されていたテレワークですが、新型コロナウイルスの流行に伴い(令和 2 年 2月25日 現在)、テレワークの早急な導入・実施を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

本記事では、まず、テレワークの定義について簡単に説明し、テレワークを行う際の法律上の問題点について解説します。

 

テレワークの定義

テレワークに似た言葉として、在宅勤務という言葉があります。

この二つはどう違うのでしょうか。

 

厚生労働省によると、

 

「テレワークとは、インターネットなどのICTを活用した場所にとらわれない柔軟な働き方で、勤務場所から離れて、自宅などで仕事をする働き方です。テレワークは働く場所によって、下図のように在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3つに分けられます。」

(テレワーク導入のための労務管理等 Q&A 集・2 頁 Q1-1 厚生労働省)

 

と解説されております。

 

つまり、厚生労働省の解説によれば、在宅勤務はテレワークの一種になります。

以下、テレワークは、在宅勤務を念頭に説明させていただきます。

 

なお、新型コロナウイルスの感染が疑われる従業員に自宅で療養するように業務命令することは休業の問題であり、テレワークとは別の問題になります。

 

この点については、紙面の関係上割愛しますが、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」に詳しく記載されていますので、こちらをご参照ください。

 

※厚生労働省HP「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

 

 

テレワーク実施上の問題点等

1 就業規則等でテレワークが規定されている場合

従業員を採用する際の労働条件通知書や就業規則においてテレワークが規定されている場合には、新たに各従業員の自宅を就業場所として指定する業務命令を行うことで実施可能と思われます。

 

2 就業規則でテレワークが規定されていない場合

⑴ では、テレワークについて就業規則等に定めがない場合、テレワークを行うことはできないのでしょうか。

 

この問題は、①テレワークに関する規定がない場合でもテレワークを行えるかという問題(以下「テレワークの可否」といいます。)と、②テレワークを行えるとして、就業規則等の変更まで必要かという問題(以下、「就業規則等の変更の要否」といいます。)の二つの問題があると思われます。

 

結論から申し上げますと、①については可能で、②については、変更を要しない場合と要する場合があると思われます。

以下、詳述します。

 

⑵ テレワークの可否

この点については、労働条件を明示した書面に、就業場所についての包括的な規定(例えば、「その他会社指定の場所」等)がある場合には、 業務命令権の行使として各従業員の自宅を就業場所として指定する、そのような規定がない場合には、企業の業務全般について労働者に指示命令を行う業務命令権の行使という形で実施することができると思われます。

 

ただし、業務上の必要性がない場合や不相当に長期間にわたる場合は、裁量権の逸脱として違法無効になると思われますので、注意が必要です。

 

⑶ 就業規則等の変更の要否

この点については、厚生労働省のテレワークモデル就業規則~作成の手引き~に分かりやすい解説がありましたのでご紹介いたします。

同文書によりますと、

 

「通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。しかし、 例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります。」

 

と述べられています。

 

そうすると、通信費用に限らず、テレワーク勤務時にのみ発生する費用負担がある場合や、諸手当の支給の変更等の労働条件の変更が生じるようなケースでは、「通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合」にあたり、就業規則の変更が必要になると思われます。

 

テレワーク実施上の注意点

また、テレワークの実施に際しては、就業規則等の見直し以外にも次の点にも注意が必要です。

 

まず、テレワーク勤務だからといって基本給を減額したり、諸手当を減額したりすることはできません。

 

また、就業場所は労働条件の一部です。

そのため、就業場所として労働者の自宅を新たに設けることは、労働条件の変更にあたると思われます。

 

したがって、労働者と個別合意が必要というのが原則で(労働契約法第8条参照)、就業規則に定める労働条件を下回る合意はできません(同法12条参照)。

さらに、労働条件変更に際し、労働基準法15条の適用があるため、就業場所として労働者の自宅を明示した書面の交付も必要となります。

 

最後に

新型コロナウイルスの問題で早急にテレワークの実施を検討されている方もいらっしゃるでしょうが、実施には注意が必要です。

就業規則を変更する際には、法令や労働協約に反しないことも必要です。

当事務所では、就業規則等に関するご相談も承っておりますので、テレワークの導入をご検討の方はお気軽にご相談ください。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年4月5日号(vol.243)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を監修した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

 

/