「パワハラ対策 来月から義務化」はどういうこと?(弁護士:和田光弘)

1 はじめに

最近、新聞等で「パワハラ対策 来月から義務化」という見出しや情報を目にします。

手元の新聞には、「2019年5月成立の女性活躍・ハラスメント規制法で企業に初めてパワハラ防止対策を義務付けた」とされています。

 

正確な法律の名前は2019年5月に改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(法律第132号)です。

略して「改正労働施策総合推進法」と言います。

この長い名前のせいで、通称「パワハラ防止法」と言われたり、上記の新聞記事のように、「女性活躍・ハラスメント規制法」とも言われたりします。

 

この法律の施行が今年6月となります。

 

ただし、中小企業は2022年4月ということです。

それでも、今でも使用者には労働契約上の安全配慮義務がありますから、パワハラ問題が起きてしまうと、民法上の責任が問われてしまいます。

 

 

2 もう一度「パワハラ」とは何か

英語の発音で、「オウ、イッツ パゥワァー ハァラスメントゥ!」などと格好良く発音してみても、英語圏の人は不思議な顔をされるかもしれません。

 

これはもともと和製英語です。

 

「セクシャルハラスメント」を研修していた方(岡田康子氏)が研修先で男性社員から「女性社員は望まない誘いはきちんと断る」と言えるのに、「俺たち男は、上司から飲み会に誘われたら嫌とは言えないし、バカヤローや死んでしまえなどの暴言を言われてしまう」という話を聞き、そこから「指導という名の人格攻撃」を表す表現として「パワーハラスメント」が作られたということです。

英語では「bulling in workplace」とか「abuse of authority」とか言われるようです。

それでも、最近は意味は通じる場合もあるようですが。

 

3 法律の定義と判断の仕方

改正労働施策総合推進法30条の2第1項の規定は以下の通りです。

 

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

 

ポイントは強調した部分の3つです。

 

中でも「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」という点の判断が難しいところです。

 

厚生労働省の指針(令和元年告示第5号)では、以下の指摘をしています。

 

  • 業務上明らかに必要性がない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

 

無論これだけではなく、「様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の 有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該 言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮する」とされています。

 

4 企業(事業主)に要請されること

それでは、事業主に要請されることはなんでしょうか。

 

以下の3つのことが主に要請されます。

 

  1. ⑴ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. ⑵ 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. ⑶ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 

簡単に言いますと、パワーハラスメントは許されないという方針を明確にするとともに、職場で研修を実施すること、相談窓口とその対応体制についてきちんと整備すること、もし発生した場合には迅速に適切に対応すること、となるでしょう。

 

言うは易し、行うは難し。

 

私も、弁護士法人の代表ですから、事業主同様の立場です。

自分自身が、後輩弁護士たちを無理に飲み会に誘っていないかと言われると、考えるところがありますし、「バカヤロ」に近い言葉を発していないかと言うと、もしかしたらあるかもしれません。

 

5 研修と社内体制の整備そして紛争対応

以上のような要請事項をきちんとやろうとしても、総務で全てうまく対応できるわけではありません。

 

実際、私もいくつか顧問先の会社から、突発的に発生した問題についてのアドバイスを求められたこともあります。

 

パワーハラスメントは、証言が得にくいこともあり、調査にも時間がかかる場合もあります。

それに、職員の中でも肩書のついている人たち、つまり部長、課長、係長、主任などの上位者が加害者になることも多いわけです。

そのような人への処分となると、戒告から懲戒解雇まで様々にあることを考えますと、「ファイト・バック」問題も発生します。

つまり、処分について、加害者とされた職員からも、異議申し立てを受ける、場合によっては裁判を出されることもあります。

 

できれば、弁護士とも連携して、問題のない対応を求めていくことが、一番です。

 

おっと失礼、宣伝になりました。

少しは気にしてみてください。

最後に川柳を。

 

 

パワハラを するなと叫ぶ 長が怖い

 

のもう 無理に誘えば アルハラに

 

パワハラの 処分が今度 パワハラと

 

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 和田 光弘

和田 光弘
(わだ みつひろ)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:早稲田大学法学部(国際公法専攻)

日本弁護士連合会副会長(平成29年度)をはじめ、新潟県弁護士会会長などを歴任。

主な取扱い分野は、企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)。そのほか、不動産問題、相続など幅広い分野に精通しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、企業のリスク管理の一環として数多くの企業でハラスメント研修の講師を務めた実績があります。