吉本興業は、なぜタレントと契約書を交わさないのか?(弁護士:今井慶貴)
吉本興業が混迷を極めている…。
反社との闇営業問題に端を発し、所属タレントである(あった?)宮迫博之さんと田村亮さんが独自の記者会見をし、それを受けての岡本昭彦社長の長時間の記者会見で両名の契約解除を撤回するに至っても、なお騒動は鎮静化していません。
今回の騒動の特徴的なこととして、松本人志さんや、加藤浩次さんなどの影響力のある所属タレントやその他のタレントが、番組やツイッターなどで、事務所批判を含むコメントを繰り返していることが挙げられるでしょう。
SNSはともかく、利害関係者でもあるタレントが出演するテレビで自社を批判するのはやや違和感を感じてしまうのですが、裏を返せば、それだけ会社に対して思うところがあったのでしょう。
とりわけ、吉本興業とタレントとの契約書がないとか、ギャラの配分がはっきりしないことが、”ネタ”としてではなく、”本音”の問題となって噴出してきています。
仄聞すると、吉本興業がタレントと契約書を交わしていないのは、芸人、アーティスト、タレントとの契約は”専属実演家契約”であるから、口頭でも成立するという理屈のようです。
確かに、雇用であれば労働条件を書面化(労働条件通知書又は労働契約書)をすることが義務づけられますが、一種の業務委託契約であれば法律上は書面化は必須ではないのかもしれません。
もっとも、郷原信郎弁護士からは、吉本興業がTV局から仕事を請け負って所属タレントを出演される場合には、下請法3条の書面(契約内容等を記載したもの)を交付する義務があるのではないかといった点も指摘されています。(Yahoo!JAPANニュース「“吉本興業下請法違反”が、テレビ局、政府に与える重大な影響」を参照)
ともあれ、ごく常識的に考えても、口頭の契約で、契約条件や対価も曖昧なまま仕事をさせることは、トラブル発生の原因となることは明らかでしょう。吉本興業は、なぜ書面化を回避したがるのでしょうか?
先日、ジャニーズ事務所が公取委から注意を受けた件もそうですが、これまで、芸能界といういわば特殊な世界であったり、事務所とタレントとの力関係ゆえか、大きな問題となっていなかったことが、通用しない世の中になってきたとの感を強くします。
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