希望退職者募集の注意点(弁護士:五十嵐亮)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

□希望退職者募集とは?

コロナ禍において、企業再建の手段の一つとして、希望退職者募集が注目を集めています。

希望退職者募集は、経営状態が悪化した場合や一部事業を閉鎖する場合など一時的に雇用調整の必要が生じた場合に実施されるもので、定年前の従業員の中から希望退職者を募って、これに応じて退職した従業員を退職金支給などの面で優遇したりするものです。

 

□希望退職者募集のメリットは?

希望退職者募集による退職の法的な性質は、雇用契約の合意解約(合意退職)です。

解雇とは異なり、法律上の厳格な解雇規制(解雇権濫用法理、労働契約法16条)の適用を受けないため、解雇に比べて訴訟リスクが少ないことが大きなメリットの一つです。

もっとも、希望退職者募集も実施方法を誤ると会社にとって予期せぬ混乱、従業員の士気の低下を招き、かえって企業再建の支障となることもあり得ます。

以下、そのようなことにならないように、希望退職者募集の注意点を解説したいと思います。

□希望退職者募集の実施方法は?

希望退職者募集を実施するに当たっては、募集要項を作成して周知する必要があります。

希望退職者募集は、臨時的・一時的な対応であるため、規程としてまとめる必要はなく、より簡易な募集要項の形式で足りるでしょう。

募集要項は、希望退職者募集の実施に至った事情を説明しつつ、従業員に対し掲示板に掲示したり、メール配信したりするなどして周知することになります。

□希望退職者募集の募集要項を作成する際の注意点は?

 

希望退職者募集の募集要項には、

 

①退職者の人数

②応募を受け付ける従業員の範囲

③募集期間・退職日

④優遇措置の内容

 

を記載する必要があります。

 

まず、①の退職者の人数ですが、希望退職者募集の目的は、過剰雇用の解消により企業の財政を健全化すること、企業の再建を図ることであることから、財政面に考慮して決定することになります。

 

次に、②応募を受け付ける従業員の範囲ですが、従業員全員を対象とする場合もあり得ますが、全員とすると企業にとって必要な人材が多く流出してしまい、かえって企業にとってマイナスとなってしまう場合もあるため、どの範囲の従業員を対象とするか(制限を設けないのか)検討する必要があります。

制限の設け方としては、部門、年齢、勤続年数、職種、人事評価の成績等が考えられます。

全従業員を対象とするとしても、「会社が承認した者」を条件として、会社にとって必要な人材の退職を防止することも考えられます。

 

そして、③募集期間・退職日についてですが、募集期間については、企業の再建スケジュールを考慮して一定の期間に限定することになるでしょう。

 

なお、希望退職者募集に応募して退職した従業員が、雇用保険による失業給付を受ける場合、特定受給資格者(会社都合)として優遇される場合があります。特定受給資格者として認められるためには、「人員整理を目的とし、措置が導入された時期が離職者の離職前1年以内であり、かつ、当該希望退職の募集期間が3カ月以内である」ことが要件となりますので、注意する必要があります。

 

さらに、④優遇措置の内容についてですが、代表的なものとしては、退職金の上乗せがあります。どこまで優遇できるかについては企業の財政状況にもよりますが、あまりに低すぎると応募がないこともあり得えるところです。

退職金の上乗せ以外の優遇措置としては、退職日までの間に、年次有給休暇とは別に特別の有給休暇を与えたり、未消化の年次有給休暇の買い上げを行うこと等があり得ます。

その他、再就職支援を行うことも考えられます。

□希望退職者募集から退職までの流れは?

 

希望退職者募集の募集要項を掲示等により周知しただけで応募があまりない場合には、希望退職者募集に至った経緯や募集要項の内容について理解を深めてもらうために、説明会や個別面談などを実施することが考えられます。

 

退職時には、後々のトラブルを予防するために解約合意書を作成し従業員に署名押印をもらうことが必要となります。

解約合意書には、

 

①希望退職者募集に応じたことによる合意退職であること

②優遇措置の内容(退職金の額、特別休暇の日数、年休買取の額等)

 

について最低限記載する必要があります。

 

特定受給資格者(会社都合)としての雇用保険による失業給付を受けることを想定している場合には、解約合意書を作成することにより(募集要項を添付してもよいでしょう)ハローワークでの受給手続きがスムーズになると思われます。

□募集人数未達時、募集人数超過時の対応は?

まず、募集人数未達時には、二次募集を実施することが考えられます。

一次募集では十分な応募が得られなかったわけなので、一次募集よりも条件を引き上げることが考えられますが、あまり条件を引き上げすぎた場合、一次募集に応じた者との不公平が生じ、トラブルになることがあり得るため注意が必要です。

 

次に、募集人数超過時の対応ですが、募集要項に「○○人に達した段階で募集を終了する」旨の記載をしたうえで、募集人数に達した時点で打ち切りをすることになります。

超過した人数の希望退職を認めるかどうかについては悩ましい問題ですが、不公平が生じないように対応する必要があるでしょう。

□希望退職者募集を円滑に進めるために

以上、希望退職者募集の概要について説明しました。

解雇に比べて訴訟リスクが少ないとはいえ、進め方を誤ると、混乱が生じ従業員のモチベーション低下などにより、かえって企業再建にとってマイナスとなることがあり得ます。

希望退職者募集を実施する場面は、緊急の状況下だとは思いますが、冷静かつ慎重に進める必要があります。

 

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・整理解雇を実施する場合の注意点(弁護士:五十嵐亮)

 

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