育休復帰後の配置転換が違法とされた事例~東京高裁令和5年4月27日判決(労働判例1292号40頁)~弁護士:五十嵐亮

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。


事案の概要

当事者

原告・控訴人Xは、Y社に正社員として採用され、個人顧客向けセールス部門のチームリーダーとして勤務したものである。

被告・被控訴人Y社は、クレジットカードを発行する株式会社である。

Y社では、個人向けの営業手法として、集客が見込まれる場所(ベニュー)における対面営業(ベニューセールス)、企業等に対してアプローチを行う営業(アカウントセールス)、既存顧客等の紹介による営業(リファーラルセールス)の各手法が用いられていた。

出産前後の経緯

平成26年1月、Xは、東京のベニューセールスチームのチームリーダー(部長相当)になり、37人の部下を持つことになった。

チームリーダーとしての職務は、目標達成に向けた部下のマネジメント、担当営業場所における販売の仕組みの構築等であった。

平成27年7月30日、Xは出産し、平成28年7月まで育児休業を取得した。

平成28年1月、セールス部門の組織変更により、4チームあった東京のベニューセールスチームを3チームに集約することとなったため、Xが担当していたチームは消滅となった(本件措置1)。

平成28年8月1日、Xは、育児休業から復帰し、新設されたアカウントセールス部門のマネージャー(部長相当)に配置されたが、部下を持たない役職であり、主な担当業務は、新規販路開拓や電話営業であった(本件措置2)。

訴訟の内容

Xは、Y社に対し、チームリーダーの役職を解かれ、アカウントマネージャーに任命されるなどの措置を受けたことが、均等法9条3項及び育介法10条等に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払いを求めて提訴したが、一審で請求棄却とされたため、控訴したものである。

本件の争点

本件の争点は、主に、本件措置1及び2が均等法又は育介法等に違反するか否かという点である。

裁判所の判断

一般論

裁判所は、まず、妊娠、出産等を理由として不利益な配置変更をすることは、原則として違法となるとしたうえで、以下の2つの場合には、例外的に違法とはならないと判断した。

①当該労働者につき自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき

②事業主において当該措置をとることなく産前産後休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、当該措置につき法の趣旨目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき

本件措置1について

裁判所は、Y社は、コストコにおけるベニューセールスを展開していたが、コストコとの契約が平成28年3月末に終了することになったことから、ベニューチームを集約したものであり、本件措置1は、妊娠・出産等を理由としたものではないと判断した。

本件措置2について

裁判所は、以下の点を指摘した上で、結論として違法であると判断した。

・Y社副社長が、Xに対し、「復職するまで1年半以上休んでいてブランクが長く、復職してからも休暇が多いから、チームリーダーとして適切ではない」旨を述べたことから、本件措置2は、Xの妊娠、出産、育児休業等を理由とする
もの

・Xは、妊娠前は37人の部下を擁してチームリーダーとして業績を残しており、その前にも平均して6人の部下を持っていたのに対し、復帰後は、700件の電話リストを与えられ、電話営業を自ら行っていたにすぎず、業務の内容面における質的な低下が著しい

・給与面において基本給は変わらないが、業績連動給が大きく減少するなどの不利益があったほか、妊娠前まで実績を積み重ねてきたXのキャリア形成に配慮せず、これを損なうもの

・Xの将来のキャリア形成を踏まえた十分な話し合いが行われていなかったのであり、自由な意思に基づいて承諾したものとは認められない

結論

裁判所は、Y社に対して、慰謝料等として合計220万円の支払いを命じた。

本件のポイント

均等法9条3項及び育介法10条は、妊娠、出産等を理由に不利益取り扱いをすることを禁止しています。

その判断基準について、従前から事業主の業務上の必要性と労働者側の不利益を比較衡量しつつ判断する手法がとられていましたが、本件では、給与面で直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、「業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たる」としている点に特徴があります。

また、裁判所は、十分な話し合いがなされていない点も指摘していることから、社内の事情と労働者の不利益、将来の見通しなどについて丁寧に話し合いをすることが求められているといえるでしょう。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年3月5日号(vol.290)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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